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『ミス・ポター』Miss Potter (2006)

監督:Chris Noonan

Story

前世紀の堅苦しいヴィクトリア朝の価値観が色濃く残る、1902年エドワード朝のイギリス。何不自由ない家庭に育ち、保守的な両親からは結婚が女の幸せと言われ続けながら結婚を拒んでいたミス・ポターは自分なりの幸せと生き方を見つけようとしていた。出版社に持ち込んだ原稿が認められ、担当の編集者ノーマンと二人三脚で作り上げた著作は大ヒット。やがてノーマンと恋に落ちるのだが・・・ピーター・ラビットの作者ビアトリクス・ポターの半生を描いたドラマ。湖水地方の風景が美しい。

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ビアトリクス・ポターの少女時代

1866728日、ロンドンの高級住宅街サウス・ケンジントンのボルトンガーデン2番地に生まれる。当時の中・上流階級の女性は学校には通わず自宅で家庭教師から教育を受けることが多かったが、ポターの教育も家庭教師に一任されていた(弟のバートラムは全寮制の学校で教育を受けている)最初のピーターラビットのおはなしは最後の家庭教師だった女性アニー・ムーア(旧姓カーター)の息子ノエルに宛てて書かれたものだった。
ポターの父はキャラコへの色染めで財を成したエドマンド・ポターの次男、母は木綿取引で成功した実業家の娘で相続した豊かな財産があったため水から働く必要は無かった。毎年夏には3ヶ月もの避暑を楽しみ、父の趣味は絵画と写真という優雅なもの。

出版社Frederick Warne and Co.

ポターが自分の原稿を持ち込んだロンドンの出版社。映画では原稿を持ち込んですぐ出版が決まったように描かれているが実際はもう少し紆余曲折があった。1891年、25歳の時にフレデリック・ウォーン社を始めいくつかの出版社に子供向けの本を出したいと原稿を持ち込んだときに断られたため、ポターは最初の作品を私家版として250部を自費出版している。その後私家版の評判が良かったため色つきの挿絵を付けてフレデリック・ウォーン社から出版されることになった。

ノーマン・ウォーン

出版社Frederick Warne and Co. の経営者一家の末っ子で、ポターとの出会いはポーター36歳、ノーマン35歳の時だった。
ノーマンは1905年の725日にプロポーズをしたがその一ヵ月後の825日に亡くなっている。
映画ではひどい咳をするようになって突然死したことになっているが、実際の死因は悪性貧血(白血病)だった。
また、映画ではポター一家が湖水地方に滞在中にノーマンが死んだことになっているが、実際は湖水地方ではなくウェールズ滞在中に亡くなっている。

ウィリアム・ヒーリス

ポターが湖水地方を開発業者の手から守るために次々と農地を購入していった時に手続きを担当していた事務弁護士(ソリシター)で、後にポターと結婚する。
映画ではポター一家の別荘の管理人の息子で年上の幼馴染ということになっていたが、実際は幼馴染ではなくポターの方が5歳年上だった。ポターは1912年にヒーリスからプロポーズを受けるがまたも両親から反対される(1913年に結婚)

ナショナル・トラスト

歴史的名勝や自然景勝地を保護するために設立された団体。1895年にオクタヴィア・ヒル、サー・ロバート・ハンター、キャノン・ハードウィック・ローンズリー牧師によって設立された。
ちなみにナショナル・トラストの会員第一号はビアトリクスの父ルパート・ポター。
ポターは遺言で4,000エーカー以上の土地と15の農場をナショナル・トラストに寄付している。
http://www.nationaltrust.org.uk/

シャペロン

当時のイギリスで中・上流階級の未婚女性はシャペロンという付き添いの女性と行動を共にするのが普通だった。ポターにもミス・ウィギンズという年配の女性がいつも付き添っている。ノーマンが「Mrs」と呼びかけると「Missです!」と訂正するところが可笑しい。同じくエドワーディアン時代の映画『眺めのいい部屋』A room with a view(1986)でもアッパーミドル・クラスの主人公にはいつもシャペロンが付き添っている。

階級意識

「商売人(tradespeople)と結婚なんてとんでもない!」とポターの両親はノーマンとの結婚に断固反対していた。ノーマンの実家は出版社の経営者一家で経済的には裕福なはずだが(彼は35歳まで家業に携わることなく無職で母親の相手をしていた。ある程度裕福でなければ出来ないことだ。)、自ら労働するのは身分の低い人間のすることだと考えている。ポターの父ルパートは法廷弁護士(バリスター)だったが、裕福で仕事をする必要が無かったため生涯一度も法廷に立ったことはなく毎日紳士クラブ通い(映画では有名なReform Clubだったが実際はどうだったのだろう)をするだけだった。後にポターと結婚するヒーリス氏は事務弁護士(ソリシター)で階級的にポター家より下だったため結婚にあたっては両親から猛反対される。ちなみに弟のバートラムもワイン商人の娘と駆け落ちしている。

お茶の時間

ウォーン家でのお茶会ではテーブルの上に華麗な銀食器が並んでいる。ポターの両親はウォーン家を商売人だと見下げていたが、現実的には銀器を多数所有できるほど裕福だったことが伺える。
ポターの家でお茶を飲む場面があり、撮影にはウェッジウッドのフロレンティン・ターコイズの茶器が使われていた。

クリスマス

ポター家でクリスマス・パーティーが催される場面がある。大きな飾り付けられたクリスマスツリー、豪華なディナー等興味は尽きない。

ホイスト(ウィスト)

ブリッジに似たカードゲームの一種(2人ずつ組になって4人でプレイする)で上級者になるにはかなりの頭脳プレイが必要。ミリーは女だてらにホイストの達人で、サー・ナイジェルも舌を巻く腕前。ちなみにイギリスの人気小説(ドラマ化されている)ホーンブロワーシリーズの主人公もホイストの達人という設定。

湖水地方への鉄道

ヴィクトリア時代に湖水地方への鉄道が開通したことにより、湖水地方はイギリスの人気保養地となった。映画ではビアトリクスが子供の頃から家族で湖水地方に行っていたように描かれているが、ポター一家が初めて湖水地方での休暇を過ごしたのは1882年、ビアトリクスが16歳の時のこと。この時ポター一家はナショナルトラストの創始者の一人ローンズリー牧師と親しくなる。湖水地方行きの鉄道はロンドンのユーストン駅発(ポターとノーマンの別れの場面)

ロケ地

Lowswater(ロウズ湖), Cumbria, England

コッカーマス近くの湖でラストシーン等の撮影に使用。

Derwent Water(ダーウェント湖), Cumbria, England

・・・18851903年の間ポター一家はダーウェント湖畔の別荘に夏の間滞在していた。「りすのナトキンのおはなし」や「ベンジャミンバニーのおはなし」はこの地域をモデルに書かれた。ナトキンたちが尻尾を帆にして渡った島がある。

Loughrigg Tarn(ラフリグ・ターン), Skelwith Bridge, Cumbria, England

Loughrigg Terrace, Skelwith Bridge, Cumbria, England

セトル・カーライル鉄道(Settle-Carlisle Railway)

セトル・カーライル線はイングランド北部でも随一と称えられる景勝ルートを走る鉄道で、映画に登場する高架橋はDentdaleArten Gill viaduct。 左の写真はセトル・カーライル線の高架橋のひとつでArten Gill viaductではないが、このような美しい高架橋が多いことで有名な路線。

Yew Tree Farm, Coniston, Cumbria, England

・・・ポターが最初の印税で購入した農場「ヒル・トップ」として
実際のヒルトップが撮影に使われなかったのは道幅が狭く撮影が困難で、湖水地方でも一、二を争う観光名所であるヒルトップを撮影用に貸し切りに出来なかったため。撮影に使用されたYew Tree Farmもポターが所有していた農場のひとつで現在はナショナルトラストの管理下でB&Bとして運営されており、ポターが営業するように勧めたというティールームもある。
http://www.yewtree-farm.com/

The Rum Story, Whitehaven, Cumbria, England

・・・ヒーリス氏の弁護士事務所の撮影に使用
ラム・ストーリーはラム酒貿易で財を成したジェファーソン家の店で、現在はラム酒貿易に関する展示が見られる。
http://www.rumstory.co.uk/

Tarn Hows(ターン・ハウズ), Cumbria, England

ナショナルトラスト所有の湖で、かつてはポターが所有していた。

Bluebell Railway(ブルーベル鉄道), West Sussex, England

Horsted Keynes駅が映画のロンドン ユーストン駅の撮影に使用されている

Hyde Park, London

・・・出版が決まったことに興奮したポターが喜んで馬車で走っていた場所がハイドパーク。公園内にはサーペンタイン湖という人工池がある。

The Type Museum,London

・・・ロンドンの印刷所の場面に使用される
100 Hackford Road,London SW9 0QU
http://www.typemuseum.org/

Osterley park and house, Middlesex

ミリーと二人で絵を見ながらお互いに独身でいようと意気投合した場面の撮影に使用された
Jersey Road, Isleworth, Middlesex TW7 4RB

Nigel Williams Rare Books(古書店), London

・・・ポターが自分の本が書店の店頭を飾っているのを見つけて喜ぶ場面
25 Cecil Court, Charing Cross Road, London, WC2N 4EZ
http://www.nigelwilliams.com/

Kingston upon Thames

・・・ノーマンの家でお茶をする場面

マン島

Brentford, Middlesex, England

Lincoln's Inn Fields, Holborn, London, England

Loch Lomond, Argyll, Scotland

 

(ロケ地ではないが)ビアトリクス・ポター縁の地

Hil Top Farm(ニア・ソーリー)

映画でも触れられていたあひるのジマイマはヒルトップ農場にいた実在のアヒル。映画にはノーマンとジマイマについて話す場面があるが、ジマイマの話はノーマンの死後、1908(ポター40)に書かれている。

ヒーリス氏の事務所(ホークスヘッド)

ナショナルトラスト所有で、現在はビアトリクス・ポター・ギャラリーとして一般公開されている

キャスト

Renee Zellweger ... Beatrix Potter
Ewan McGregor ... Norman Warne (ビアトリクスの担当編集者、後に婚約する)
Emily Watson ... Millie Warne (ノーマンの姉、ビアトリクスの親友)
Barbara Flynn ... Helen Potter (ビアトリクスの母)
Bill Paterson ... Rupert Potter (ビアトリクスの父)

Matyelok Gibbs ... Miss Wiggin (ビアトリクスのシャペロン)

Lloyd Owen ... William Heelis (湖水地方の事務弁護士)

Phyllida Law ... Mrs. Warne(ノーマンの母)
Anton Lesser ... Harold Warne(ノーマンの兄・出版社経営)
David Bamber ... Fruing Warne(ノーマンの兄・出版社経営)

Patricia Kerrigan ... Fiona (ポター家のメイド)
Judith Barker ... Hilda (ポター家のメイド)
Chris Middleton ... Saunders (ポター家の使用人)
Jennifer Castle ... Jane (ポター家のメイド)

John Woodvine ... Sir Nigel (クリスマスパーティーの客人)
Joseph Grieves ... Lionel Stokely (ビアトリクスのお見合い相手)
Andy McSorley ... Harry Haddon-Bell (ビアトリクスのお見合い相手)

Lucy Boynton ... Beatrixの子供時代 (10)
Oliver Jenkins ... Bertramの子供時代 (4)
Justin McDonald ... William Heelisの青年時代

参考資料とソフト

http://uk.imdb.com/title/tt0482546/

http://www.peterrabbit.com/

『ピーターラビットと歩くイギリス湖水地方―ワーズワース&ラスキンを訪ねて』
文:伝農 浩子、写真:辻丸 純一

(2006年 アメリカ=イギリス 93)

 


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