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タイトル*


『変態愛 インセクト』Angels & Insects (1995)

監督・脚本:Philip Haas
原作:A.S. Byatt 小説"Morpho Eugenia"
共同脚本:Belinda Haas

Story

1860年代初頭、ヴィクトリア朝のイギリス。自然科学者のウィリアム・アダムソンは10年にわたるアマゾンでの調査からの帰りに乗っていた船が難破し、集めていた資料も貴重な標本も全て失ってしまった。しかし昆虫標本のコレクターでもある富豪のアラバスター卿の好意により屋敷に逗留してコレクションの分類を任される。やがてウィリアムはアラバスター卿の長女である蝶のように美しいユージニアに恋するようになり、身分違いの障害を乗り越えて彼女と結婚する。血統を重んじ純血を保つことを良しとするユージニアの兄エドガーは、ウィリアムに対する不快感を隠そうともしないのだが。

やがて美しい妻との間には何人もの赤子が立て続けに生まれる。幸せな結婚生活の一方で、ウィリアムはガヴァネス(家庭教師)のマティやアラバスター家の子供たちと一緒に蟻の巣を観察しているうちに昆虫学への情熱を取り戻してゆく。教養と才能あふれるマティの協力もあって、彼の研究は実を結ぼうとしていた。何もかも上手くいっているかのように思えた矢先、隠されていたユージニアの秘密が明らかになり・・・

『抱擁』 Possession (2002)でブッカー賞作家となったA.S.バイヤットの小説を映像化。カンヌ国際映画祭パルムドールや米アカデミー賞衣裳デザイン賞にもノミネートされている"ちゃんとした"作品なのだが、このトンデモな邦題とDVD・ビデオパッケージの煽り文句("めくるめく官能"云々)はあまりにもひどい。主にエロティックな要素を期待して鑑賞された方はがっかりするだろう。確かにパッツィ・ケンジットはセクシーかもしれないが、やはりここは英国党ならヴィクトリア朝風俗やインテリアに、映画好きなら『インティマシー』 Intimacy (2000) のマーク・ライランスの演技力に注目。

Check!

身分の違い

ウィリアムの父は肉屋なので、学者とはいえウィリアムも労働者階級出身。血統や家柄が重視された19世紀、ヴィクトリア朝のイギリスでウィリアムとユージニアのような身分の差を乗り越えた結婚は異例のこと。馬の話でも"純血種"にこだわるエドガーに対し、自然科学に強い関心を示すアラバスター卿はダーウィンの話を持ち出してたしなめる。

ダーウィニズム

チャールズ・ダーウィン
Darwin, Charles Robert (1809-1882)

『種の起源』の発表は1859年で、この映画の時代背景はダーウィニズムが社会に衝撃を与え、イギリスの知識層の間で物議をかもしていた時代に設定されている。
ダーウィンの理論は生物の種の多様性は環境によってもたらされるもので、生物は環境の違いに適応ように進化していったという理論。

血統にこだわるエドガーと、黒蟻と赤蟻の生態の観察から環境こそが大事であること改めて実感するウィリアムの対比が鮮やか。

ガヴァネス(女家庭教師)

ガヴァネスとは、主に住み込みで上流から中流階級の子供の教育にあたった女性家庭教師のこと。19世紀のイギリスでは、働いて収入を得る女性はレディではないと見なされており、未婚の女性がレディの体面を保ちつつ就ける仕事はガヴァネス以外にはなかったとか。マティもガヴァネスとして主にアラバスター家の3人の女の子(マーガレット、エレイン、イーディス)の教育にあたっていたが、昆虫学のみならずラテン語やギリシャ語も堪能で、彼女の手による写実的な昆虫のスケッチは非常に精密なもの。話し方や会話からも彼女の教養の広さがうかがえる。(いつもの美しいブロンドではなく地味な黒髪にしたクリスティン・スコット・トーマスの存在感が光る。27歳という設定はちと苦しいが・・・)

Weddings & a funeral

妹のロウィーナに遅れて結婚するわけには行かないと、ユージニアとウィリアムのカップルも同じ日に一緒に結婚式を挙げる。アラバスター家の小さい女の子たちが二組に花びらを投げかける。美しいウェディング・ドレス、式の後のパーティーやダンスなども目に楽しい。

ユージニアの母の葬儀の場面ではみな黒いドレスに身を包みヴェールをかぶっている。上流階級らしい葬式。葬儀からまだ日も経っていない時期の狩りに行く時で、ウィリアムは腕に喪章をしている。

豪奢な上流階級の暮らし

難破船から命からがら脱出したウィリアムは借り物のスーツで舞踏会に出席し、きらびやかな雰囲気の中で所在無さげにしている。この屋敷は主が裕福なため天井の装飾から調度品まで何もかも豪華。ウィリアムはアラバスター夫人からお茶をご一緒するように誘われるが、ティーカップとケーキ皿をどう扱ったらよいか戸惑っている。このティーセットが全て銀製でヴィクトリア朝らしい華やかな装飾が施された豪華なもので目が引き付けられる。

マティが研究に使っている蟻の飼育箱まで飾りがついている。ユージニアのドレスもモルフォ蝶を思わせる鮮やかな青が印象的。

赤い乗馬服に身を包んだ紳士たちが、猟犬を従えて狩に行く場面も。

いちごにクリーム

イギリスの初夏の風物詩、イチゴにクリームをかけて食べる様子がこの作品にも登場する。広い庭の芝生の上で、アラバスター家の面々が戸外でのティータイムを楽しんでおり、妊娠中で大儀そうなユージニアはイチゴに生クリームをかけたものを食べている。

 

ロケ地

Arbury Hall, Nuneaton, Warwickshire, England CV10 7PT

http://www.information-britain.co.uk/showPlace.cfm?Place_ID=552
http://www.heritage.me.uk/houses/arbury.htm

キャスト

Mark Rylance .... William Adamson
Kristin Scott Thomas .... Matty Crompton (アラバスター家のガヴァネス)

Patsy Kensit .... Eugenia Alabaster (アラバスター家の長女・ウィリアムの妻)
Jeremy Kemp .... Sir Harald Alabaster (アラバスター家の当主・Eugeniaの父)
Douglas Henshall .... Edgar Alabaster (Eugeniaの兄)
Annette Badland .... Lady Alabaster (Eugeniaの母)
Saskia Wickham .... Rowena Alabaster (Eugeniaの妹)
Chris Larkin .... Robin(Rowenaの夫)

Anna Massey .... Miss Mead(教師)
Lindsay Thomas .... Alabaster夫人のメイド
Michelle Sylvester .... Margaret Alabaster (Eugeniaの小さい妹)
Clare Lovell .... Elaine Alabaster(Eugeniaの小さい妹)
Jenny Lovell .... Edith Alabaster(Eugeniaの小さい妹)
Oona Haas .... Alice Alabaster
Angus Hodder .... Guy Alabaster
Clare Redman .... Amy (メイド)

Eugeniaの兄を演じるのは『イフ・オンリー』 If Only... (1998)のダグラス・ヘンシャール。

参考資料とソフト

imdb.com/title/tt0112365/

DVD

原作小説:_Angels and Insects_A.S. Byatt (著)

(1995年 イギリス 118分)


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