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タイトル*


『マグダレンの祈り』The Magdalene Sisters (2002)

監督・脚本:Peter Mullan

Story

1964年のアイルランド。"性的に堕落した"女性たちを収容し矯正させるためにカトリック教会によって運営されている女子更正施設「マグダレン修道院」に、3人の少女たちが連れてこられた。 従兄にレイプされ一族の恥とみなされたマーガレット、未婚の母として出産を終えたばかりのローズ、そしてその美しさゆえに男の子たちの視線を集める孤児院育ちのバーナデット。私語は厳禁、一日中洗濯部屋での重労働に従事し、刑務所の囚人よりも過酷な環境におかれ、出所できないままに年老いていく女たちを横目にこの地獄から抜け出す方法もない出口の見えない生活。ある者は脱獄を図り、ある者は逃亡のチャンスに遭遇しながらもその場に留まり、またある者は精神のバランスを崩してゆく・・・

ピーター・マラン(ピーター・ミュラン)はこの作品により監督第2作目にして2002年ヴェネチア国際映画祭金獅子賞に輝いた。カトリック教会の裏側を描いたこの作品は、バチカンなどカトリック側から猛烈な抗議を受けたというが、このあまりに衝撃的なストーリーは実際に収容されていた女性たちからの証言に基づいてドラマ化したもの。アイルランドでは1996年までマグダレン修道院が存在し、延べ3万人もの女性が収容されていたという。

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マグダレン修道院

「Magdalene」はキリストに出会ったことで改心した娼婦「マグダラのマリア」にちなんで名付けられたもの。娼婦とまでいかなくても、マーガレットのようにレイプの被害者にもかかわらず"家族の面汚し"ということで連れて行かれたり、ローズやクリスピーナのように父なし子を産んでしまったり、また、ちょっと可愛くて男の子にモテる(肉体的交渉は一切持っていないにもかかわらず)というだけで収監されたバーナデットのような例は多々あったらしい。

この物語の舞台となった1960年代といえば、お隣のイギリスではまさに「スウィンギング・ロンドン」花盛りの、フリーセックスがもてはやされ性的に解放されていた時代。それに引換えカトリックの国アイルランドでは性道徳が非常に厳しく、堕胎はおろか婚前交渉さえ罪(sin)とされていたのは、あまりにも対照的。

マグダレン修道院で女性たちは主に洗濯に従事していた。全自動洗濯機がなかった当時、すべて手洗いでの作業は過酷を極めた。労働による対価は女性たちのものにはならず、修道女たちが受け取っていたさまが描かれている。洗濯機も徐々に導入され労働条件も改善されていったが、虐待や待遇の酷さに耐えかねて暴動も起こったという。映画でも修道女たちが女性たちを裸にして身体の品定めをしたり、折檻したりと、精神的・肉体的に虐待を加えるさまが描かれている。

最後のマグダレン修道院が閉鎖されたのは1996年とつい数年前のことだというから驚かされる。

歌、アイリッシュ・トラッド

冒頭はマーガレットの親戚の結婚式の場面から始まる。アイルランドの民俗音楽が奏でられ、ボウラン、ユーリーンパイプなど、アイルランド独特の楽器が使われている。この場面で歌われている「The Well Below The Valley(谷間の井戸)」は近親相姦によって子供を産んだ女性の哀しい歌とのこと。音楽に乗って、出席者たちはアイリッシュ・ダンスを踊る。

食生活

マグダレンに収監されていた女性たちの食生活はポリッジ(オートミールのお粥)等かなり質素なものであるのに対し、ついたての向こうで食事をしている修道女たちの皿にはパンやベーコンなども見える。

イギリスへの逃亡

マグダレンを脱走することに成功したふたりのうち、ローズはフェリーでイギリスのリバプールに渡り、バーナデットは後にスコットランドに渡る。地理的に近いこともあって、現在でもリバプールとスコットランド西部はアイルランドかから渡ってきたアイルランド系住民の多い地域。

ロケ地

St Joseph's convent,Dumfries, Dumfries & Galloway, Scotland

Galloway, Scotland

Awards

ヴェネチア国際映画祭 金獅子賞受賞
英アカデミー賞(BAFTA)2部門ノミネート

キャスト

Anne-Marie Duff .... Margaret
Nora-Jane Noone .... Bernadette
Dorothy Duffy .... Rose Dunn/Patricia(未婚の母)
Eileen Walsh .... Crispina/Harriet(未婚の母)

Geraldine McEwan .... Sister Bridget(院長)
Frances Healy .... Sister Jude(修道女)
Eithne McGuinness .... Sister Clementine (修道女)
Phyllis MacMahon .... Sister Augusta(修道女)

Mary Murray .... Una O'Connor(マグダレンの囚人)
Peter Mullan .... Mr. O'Connor(Unaの父)
Britta Smith .... Katy(初老のマグダレンの囚人)

Ian Hanmore .... Margaretの父
Deirdre Davis .... Margaretの母
Eamonn Owens .... Eamonn(Margaretの弟)
Ciaran Owens .... 少年時代のEamonn(Margaretの弟)
Chris Simpson .... Brendan(Bernadetteに関心を示す洗濯屋の助手)
Daniel Costello .... Father Fitzroy (堕落した神父)

Jim Walsh .... Roseの父
Maureen Allan .... Roseの母
Tracy Kearney .... Crispinaの姉
Stephen McCole .... マーガレットが停めた車に乗っていた男
Sean McDonagh .... Kevin(マーガレットをレイプした従兄)

マーガレットの弟Eamonを演じたのは、実の兄弟Eamonn Owens(『ブッチャー・ボーイ』)とCiaran Owens。
クリスピーナを熱演したアイリーン・ウォルシュは、『ジャニスのOL日記』で主演している。

 

参考資料とソフト

uk.imdb.com/title/tt0318411/
www.magdalene.jp/
miramax.com/the_magdalene_sisters/

DVD

『マグダレンの祈り』原作本
ジューン・ゴールディング 著/ 石田順子 訳

 


『マンボ!マンボ!マンボ!』 Mad About Mambo (2000)

ビデオ題『マッド・アバウト・マンボ』

製作総指揮 ガブリエル・バーン
監督・脚本:John Forte
撮影:Ashley Rowe

Story

舞台は北アイルランド、べルファスト。ダニー・ミッチェルは背番号10のフォワード、将来の夢はプロのサッカー(フットボール)選手。だがベルファスト・ユナイテッドはプロテスタント系のチームで、カトリック系住民であるダニーにとって入団は夢のまた夢。 ところがカトリック国であるブラジルから獲得したカルロス・リーガ選手の加入によって、ダニーにも希望が開ける。カルロスの「サッカーに必要なのはリズムだ。ボールと踊るのだ。」という言葉に感銘したダニーは、サッカーセンスを向上させるために、ラテン・ダンス教室の門を叩く。

ダンス教室で出逢ったのは、親の七光をはね飛ばしてダンス大会で優勝したいと意気込むお嬢様ルーシーと、彼女の恋人でダンス・パートナーのオリヴァー。 オリヴァーからの誘いで彼がキャプテンをつとめるプロテスタント系のカレッジエイト校との交流試合で対戦するが、ダニーのファウルでオリヴァーが負傷してしまう。 ダンスのパートナーに怪我をさせられて怒るルーシーだったが、ダニーはかわりに自分が大会で相手役を勤めると申し出るのだが・・・

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西ベルファスト

北アイルランドでは少数派であったカトリック系住民は、西ベルファストに集中して住まわされ、その地域はある種のゲットーとみなされていた。 カトリック系住民居住地域は他の地域に比べて経済状態や環境が極めて悪く、プロテスタント系住民の居住地域の間には検問が設けられていた。
参考:『キャル』 Cal (1984)『ボクサー』The Boxer (1997)

ダニーたちが通う西ベルファストにある学校の運動場の壁にも「Brits out」「IRA」などと、不穏な落書きがされている。ルーシーの父も西ベルファスト出身で、実はダニーの通う学校の卒業生であった。カトリック系のセント・ジョセフ校は男子校、プロテスタント系学校が共学という対比も面白い。交流試合でオリヴァーが負傷した時、彼の学校の生徒たちは「ほらね、西ベルファストよ」と差別意識をむき出しにする。

カトリック系住民とプロテスタント系住民の対立

オリバーの母は「バス?カトリックが焼いたかも」と、カトリックに対する嫌悪感を隠さない。

ルーシーの父シドは、カトリックだがDIYチェーンを経営している成功者。裕福になったので、プロテスタント系選手ばかりのベルファスト・ユナイテッドの役員の一人に名を連ねている。(カトリックの国である)ブラジル出身のカルロスは、ベルファスト・ユナイテッドでプレーする唯一のカトリックだった。

「ゲール語を話すから失業するのよ」

ダニーが家族(例によってカトリックなので大家族)と話している場面。兄がぺらぺらぺらっとゲール語でしゃべると、母は「ゲール語を話すから失業するのよ」と。 プロテスタント系住民が多数派である北アイルランドでは、カトリック系住民は徹底的な差別を受けており、特にアイルランド固有の言葉であるゲール語を話すような人間に対する差別はさらにきついものだったに違いない。

ダニーが通う西ベルファストのカトリック系高校セント・ジョセフ校(名前に"St."が付くような学校はまずカトリック系と見てよい)では、ゲール語による授業がある。 アイルランドはイギリスの支配から脱する過程で、民族意識や誇りを高めようとゲール語の教育を復活させた。『アンジェラの灰』 Angela's Ashes (1999) にもゲール語を話すよう求められる場面が。

セント・ジョセフ校の校長は、カトリック神父で(襟に白いカラーの付いた)法服を着ている。フットボール観戦には首元にマフラーを巻いて、法服を着ていることがばれないように気を遣う。

ものものしい兵士たち

ベルファストの街には、銃を手に迷彩色の軍服を着た英国軍兵士たちによる検問所がある。 車両税を払っていない車に乗っていたルーシーは検問を見て焦る。

「ブラジルにはラテンのリズム、プロテスタントにはマーチングリズム」

ブラジルからやってきたカルロス選手を見てダニーが言った台詞。マーチングリズムというのは、毎年夏にプロテスタントによって(半ば示威行動的に)行われるオレンジオーダーのマーチのことだろう。
参考:『キャル』 Cal (1984)

Bodhran(ボウラン)

人形相手にダンスの練習をするダニーの横で、友達のスパイクはアイルランド音楽の伝統的な太鼓「Bodhran(ボウラン)」を叩いている。片側だけに皮を張った太鼓で、アイリッシュ・ミュージックの演奏には欠かせない。

Rudiのカフェ

ダニーたちのいきつけの店はRudi's Cafe。ルーシーにいいところを見せたくて一緒に入った時、出てきたメニューはフィッシュ&チップス。 サービスで西ベルファスト一美味しい"Knickerbocker Glory(アイスクリーム・サンデーのこと)"も出してくれる。『ハリーポッターと賢者の石』Harry Potter and the Philosopher's Stone (2001)で動物園の帰りにヴァーノンおじさん一家が食べていたのも、この"Knickerbocker Glory"。

アイルランドのスポーツ:ハーリングとゲーリック・フットボール

「サッカーなんて大英帝国のスポーツだ」と言うセント・ジョセフ校の校長先生。 アイルランド共和国と北アイルランドのカトリック系住民の間では、イギリスからの精神的独立を図る過程で、アイルランド独自の文化を盛りたてる運動があった。スポーツでは「ハーリング」と「ゲーリック・フットボール」を奨励するというのもその表れ。

「ゲーリック・フットボール(Gaelic football)」は、1チーム15人で手足両方使うサッカーとラグビーを併せたようなもので、ゴールにシュートしてもボールがゴール・ポストのクロスバーを超えても得点できる。

「ハーリング(Hurling)」は1チーム15人でホッケーのようなスティック(hurley)で球を打ち合ったり、スティックに載せて運んだりする競技。カトリック系女子校の女の子たちがハーリングをしている場面が。

競技方法について詳しくは以下のGaelic Athletic Associaonのサイトを参照:
http://www.gaa.ie/sports/hurling/
http://www.gaa.ie/sports/football/

高嶺の花

ルディがお嬢様ルーシーを形容するのに、使った比喩はやっぱりフットボールがらみ。「彼女はプレミア・ディヴィジョン、おまえはサード・ディヴィジョンだ」

故郷を離れてイングランドへ

オリヴァーは高校を出たら、ケンブリッジ大学に進む予定だという。彼のように室内プールがあるような裕福な家庭に育った階級は、故郷である北アイルランドを離れてイングランドを目指すというひとつの例。 彼はルーシーにも家業を継がずにイングランドに行くことを願っている。

ロケ地

ダブリン
設定は北アイルランドのベルファストだが、実際の撮影はダブリンで。

キャスト

William Ash .... Danny Mitchell
Maclean Stewart .... Mickey (Dannyの友達・太め・デザイナー志望)
Russell Smith .... Gary (Dannyの友達・黒髪・手品好き)
Joe Rea .... Spike (Dannyの友達・赤毛・将来の夢は伝道師)

Brian Cox .... Sidney McLoughlin (DIYショップチェーンの社長・Lucyの父)
Keri Russell .... Lucy McLoughlin (Sidneyの娘・ダンス大会優勝を夢見る)

Theo Fraser Steele .... Oliver Parr(Lucyの恋人・裕福なプロテスタント)
Eleanor Methven .... Mrs. Lydia Parr (Oliverの母)

Tim Loane .... Brother McBride
Jim Norton .... Brother Xavier

Rosaleen Linehan .... Mrs. Burns 先生
Julian Littman .... Rudi Morelli (カフェの主人)
Daniel Caltagirone .... Carlos Rega (ブラジル出身・ベルファスト・ユナイテッド選手)
Alan McKee .... Frank Mallin(ベルファスト・ユナイテッドのスカウト)

Aingeal Grehan .... Mrs. Mitchell (ダニーの母)
Gavin O'Connor .... Seamus Mitchell (ダニーの兄)

ルーシー役のケリー・ラッセルは、TVシリーズ『フェリシティの青春』で人気を博したアメリカ人女優。

■参考資料とソフト

imdb.com/Title?0156757

www.mambo-mambo-mambo.com

 

 


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