UK雑記帖

Good bye, England's rose 〜ダイアナ元妃の葬儀の周辺〜


 

その一挙手一投足が人々の関心の的だったダイアナ元皇太子妃が、8/31パリで交通事故死した。 現地時間9/6の午前中に行われた葬儀の様子はBBCによって世界中に生中継された。 その映像を見て気がついたことをいくつか。

悲しみのあまり、あの巨躯を支えられるようにして入場してきたパヴァロッティ、ロック歌手のスティングや、ジョージ・マイケルも含めて、ウェストミンスター・アビーの中には芸能人が何人も参列していた。 女王陛下がビートルズに勲章を授けたお国柄らしい。

それでも、国民的人気歌手であり、ダイアナ元妃の親友でもあったエルトン・ジョンが歌を捧げることには当初一悶着あったそうだ。 しかし心を込めてグランド・ピアノの前に向かったエルトンの歌声は、聴衆の胸を打った。 「Good bye, Norma Jean(*ノーマ・ジーン=マリリン・モンローの本名) …」という歌い出しで始まる往年の名曲「Candle in the wind」の歌詞を変え、「Good bye, England's Rose …(=さらばイングランドの薔薇よ)」としていた。 今回ダイアナの葬儀でこの歌を使用するにあたって、エルトンは当時エルトンの恋人だったトーピン(通称・バーニー)に電話して歌詞を書き換えてもらったそうだ。

薔薇というのはイングランドの国花であり、ダイアナ元妃を偲ぶのにはまことにふさわしい表現なのだが、ウェールズ、スコットランド、アイルランドあたりから文句が出ないのかなと、余計な心配をしてしまった。 「連合王国」イギリスは決して一枚岩ではなく、特にスコットランドの人々が中央のイングランドに対して抱く複雑な心境というのは想像以上だ。(エジンバラに行った時もそれをひしひしと感じた) スコットランドの「意地」を物語るこんなエピソードがある。 スコットランドがイングランドと連合を結んだのは18世紀になってからなので、17世紀の初めまで在位したエリザベス1世は当時スコットランドまでは統治していなかった。スコットランドには「エリザベス1世」が存在しなかったのだから、現在の女王を「2世」と呼ぶのは抵抗があるという人もいるくらいだ。 その他にもサッカーで、イングランドとスコットランドが対戦しても「インターナショナル・ゲーム(=国際試合)」と称するなど、例を挙げればきりがない。 ましてやダイアナは「プリンセス・オブ・ウェールズ」なのだから。

ダイアナの弟である、現スペンサー伯爵の名前の扱い方もTV局によってバラバラだった。 なかでも「アール・スペンサー氏」「アール・スペンサー伯」という表記には苦笑してしまった。「アール(Earl)」というのは英国では「伯爵」という意味の称号なのだ。(他の国では伯爵は“count”) 紅茶の「アール・グレイ」でおなじみの「アール」である。 あれだけ有識者が揃っていてなぜ誰も指摘しないのか。 日経新聞(9/8朝刊)まで「アール・スペンサー伯」と報道している。

トニー・ブレア首相の朗読した聖書の一節「愛は寛容であり、愛は情け深い…」(コリント書・第13章)は、よく結婚式の時に引用される部分だが、ブレア首相の堂々たる態度と相俟って、人々の感動を呼んだ。 国民の心のプリンセス、ダイアナが亡くなった後も「愛はいつまでも絶えることがない」。 そして、「Candle in the wind」の歌詞のように「命の灯が燃え尽きた後も伝説は残る」ということを印象づける式典となった。

また、地雷撲滅などのダイアナの関わっていた運動を継続するために、葬儀までに200億円の寄付金が集まった。「24時間TV」が集める募金が一回につき3億円程度なのを考え合わせると、その規模の大きさがわかるだろう。


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