リンボウ先生に物申す 〜そんなにRV車がお嫌いか?〜


 

イギリスに興味のある人なら一度は手に取ったことがある本「イギリスはおいしい」の著者・林望さんは、イギリス関係に限らずいろいろな分野で著作活動をしている書誌学者である。イギリス愛好者の間ではもはやバイブルのごとく称えられている一連の著作をものしたリンボウ先生に意見するのは気が引けるのだが、あえて言わせていただく。「文筆家ならもう少し論理に一貫性を持たせた説得力あるエッセイを書いていただきたい」

問題のエッセイは「リンボウ先生のへそまがりなる生活」という、リンボウ先生が嫌いなものについての短いエッセイを集めた本の中にある。電車、飲酒、修学旅行、運動会・・・と列挙が続くなかで最も憎悪のオーラが燃えたぎってハイ・テンションで書かれた項目の一つに「ヨンク」がある。四駆(=四輪駆動車)と漢字で書けば良いところをあえてカタカナで表記してあることからもうかがえるように、この嫌悪感で論理も理性もふっとんだ文章を読んでいると、彼の四駆およびRV車への憎しみがいかに強いかわかるというもの。

 

「ヨンクは田舎も都会も走るべからず」??・・・じゃあどこで乗れば良いの?

ロンドン・ハロッズ前にてまず彼は、「RV車が坂道も泥もなにもない舗装道路の上をのさばっているのが気に入らない」そうである。先進国の首都でRV車が走っているのは日本ぐらいだとも言う。確かにこのところのブームでRV車の割合は多いだろうが、実はリンボウ先生の大好きなイギリスだってそういう車はいくらでも走っている。本家のランドローバー、レンジローバーは言うに及ばず、ジープ・チェロキー、パジェロ、サーフ、テラノ、RAV4、CR-V、エスクード、ミストラル(以上、すべてRV車)などが日本以上に坂道の少ない綺麗に舗装されたイギリスの道路を走りまわっていた。

では、坂道が多く舗装されていない道路なら走らせていただけるのかというと、それも許してもらえないらしい。「自然の恩恵を満喫しようと思えば現地まで歩いていくべき」だそうだ。東海道53次の時代じゃあるまいし、東京の住民が自然を愛好しようとすれば、ひたすら重い荷物を背負って泣いてグズる子供の手を引いてテクテクテクテク・・・馬鹿馬鹿しいにもほどがある。

つまるところRV車が走って良い場所は「工事現場、山奥の林道、戦場か未開の原野などの物騒なところ」で必要最低限の場合においてのみひっそりと棲息するべきなんだそうだ。ところがその舌の根も乾かぬうちに、「林道を走るのもけしからん」とおっしゃる。若者向けのジャーナリズムが煽り立てた「アウトドア志向」で「本来人が歩くためだけのために作られた小道や林道に踏み込み、木々をへし折り、河を押し渡って水を汚し、魚介に損害をあたえ、排気ガスを撒き散らし」するのがRVに乗っている奴等であると手厳しい。常識で考えて欲しい。必要もないのに人間しか通れない幅の林道を木をへし折りながら走る車がどこにいるのか。そんなことしたらボディがへこんで修理代が何十万もかかってしまうではないか。

 

野山がゴミだらけなのは「ヨンク」のせい??

「ジャーナリズムのせいでアウトドア志向の若者が自然を荒らしてバーベキューをして山のようなゴミを残して帰る」というのも恐ろしい偏見だ。この文章から当の若者向けアウトドア雑誌「Be-pal」などに一度も目を通したことなどないのがすぐばれる。なぜなら、これらのジャーナリズムはむしろ「自然に親しむこととエコロジーは表裏一体だ」という思想を煽り立てているからである。記事の随所に「とっていいのは写真だけ、残していいのは足跡だけ」式の自然愛護メッセージが見受けられるのが、こうした若者向けジャーナリズムの特徴である。実際に数多くの釣り場や山に出向いた私に言わせれば、ゴミを平気で捨てるのはむしろジャーナリズムに毒されていないオジサン・オバサンのほうが圧倒的に多い。遠いところからRV車で釣り場にやってくる若者は釣り糸も針もスナック菓子の包み紙もちゃんと持って帰るが、麦藁帽子に手ぬぐいで頬かむりして軽トラックで乗り付ける地元のオジサン・オバサンは、釣り針の入っている袋からカップラーメンの容器までなんでも足元にポイッ。いやしくも文筆家なら机上の空論を捏ね上げる前に、まずは実際にアウトドアの現場に足を運んで、若者向けアウトドア雑誌に目を通してみてから判断するべきではないか。

 

「ヨンク」の運転マナーが特に悪いのか??

ノリにノッた先生の筆はもうとどまるところを知らない。なんでも、四駆車は普通の道路では「無辜の善良な運転者を恫喝し、煽り立て、車間を無法に詰め、クラクションをわめきちらし」するものらしいのである。ここまでくると被害妄想に近い。普通、四駆車とスポーツカーのどちらに煽られたことが多いか・・・信号ダッシュしたりブォォォォォンッと爆音を鳴らして一般の運転者を煽るのはどんな車が多いか、考えればわかりそうなものだ。

四駆のなかでも特に大型のものはディーゼル・エンジンなのでもともとスピードが出ないし(特に坂道に弱い)、車高が高いとそれだけ空気抵抗も大きくなる。第一4輪駆動より2輪駆動のほうがスピードも出るし燃費も良いではないか。スピード好きの人間ならまず選ばない種類の車が四駆なのである。(リンボウ先生の愛車がユーノス・ロードスターというスポーツカーであることを知っていたので余計に、このあたりの文章は噴飯ものだった) まあ煽りたい性格の人はどんな車に乗っていても煽るものだが。トッポやカローラIIのようなラブリー系の車だってドライバーによっては他の車を煽ることもあるではないか。

 

オートマの「ヨンク」が何故悪い?

「エンジンブレーキが不十分なオートマ車で山野を駆けるのは頗る危険かつ社会の迷惑」なんだそうだ。おそらくこのお方は、オートマ車のなんたるかさえご存知でないのにこんな文章を書いている。車のギアには1速から5速(または4速)まであるのだが、オートマで自動的に切り替わるのは3速から5速(または4速)までで、エンジンブレーキをきかせる1速(ロー)2速(セコ)はちゃんと手動で切り替えるようになっている。つまり坂道を低速で走るぶんにはマニュアルもオートマも大差ないのだ。(マニュアル車の真価はスピードを上げる時に発揮される)

家人も四駆愛好者だが「マニュアル車の微妙なスロットルワークだのダブルクラッチくらいのことは自家薬篭中のものとしていなければならない」なんてリンボウ先生にいわれるまでもなく、マニュアル車の運転技術に長けているのはもちろん、オートマ車で箱根の急なカーブの続く下り坂をギアをドライブにしたままでブレーキを踏む必要のない華麗なステアリングで疾走することもお茶の子さいさいである。・・・必要もないのに他の車を煽ったりしないし(追突したら後ろの車が10割責任だ)、ゴミは一つ残らず持ち帰る(常識ある社会人として当たり前だ)野外活動を愛するRVドライバーのひとりである。

 

そういうリンボウ先生の愛車はユーノス・ロードスター

さて、ここまで四駆を憎むリンボウ先生がどんな車に乗っていらっしゃるかというと、マツダのユーノス・ロードスターである。ツーシーター(2人乗り)で車高の低い小型スポーツカーなのだ。泥道でもないところをRV車が走るのが不自然だという論理なら、本来スピードを楽しむべきスポーツカーで渋滞の都内を走るのも同じくらい不自然だと言わざるを得ない。都内はRVもスポーツカーも両方とも締め出して、サニーやカローラのみ通行可ということにしてはいかがかな。

先生は電車も非常に憎んでいらっしゃるので、通勤はもちろんどこに行くにも車を利用するそうだ。四駆ドライバーには田舎まで歩いていけとのたまうのに、である。四駆ドライバーが野山にゴミを撒き散らすなどとあらぬ言いがかりをつけるなら、自分の排気ガスのことも少しは気に懸けて欲しいものだ。ましてや首都圏の渋滞緩和と省エネルギーのためにできるだけ公共の交通機関を利用しようと叫ばれているこのご時世・・・ 週末に四駆で野山に出かけたりドライブを楽しんだりする若者だって、平日は満員電車に文句も言わず通勤しているのに。

結論として彼の挙げているRV車に対する言いがかりはすべて根拠のないものである。「要するに私はRV車が生理的に嫌いなのだ」と言いたいだけなのに、有識者としてのプライドがそれを邪魔して後から理由をひねり出しているだけなのだ。ここまでくると「どうしてリンボウ先生がここまでRV車を憎むようになったか」という謎のほうにむしろ興味が湧く。ひょっとして好きな女の子をRVに乗った男に取られたのではないかと邪推したくもなる。今はあのように落ち着いた風貌をなさっているが、若い頃は慶応ボーイらしくディスコ(ゴーゴー喫茶)に通ったりスキーに行ったりして、大いに青春を謳歌していたそうだから。。。

 


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