1992年2月から12月までの10ヶ月間、家族で滞在しました。赤ん坊がいたので最初はまわりの景色もあまり目に入らなかったのですが、あたたかい季節になって生活のペースがつかめるようになると、休日には散歩に行ったり、商店街でウインドショッピングを楽しんだり出来るようになりました。秋になって初めて、キングスカレッジのチャペルをゆっくり見ました。私ってイギリスに住んでるんだって少し感じた頃です。私が娘と共に大好きだったのが、マーケットプレイスにある屋台で売っているジャケットポテトです。石焼いもの感覚で、大きないもだったのでそれで一食賄えるほどでした。
家から歩いて2、3分の、ほんとに家の裏って感じのところに大きな芝生があって、ケム川が流れていました。人が通るだけの橋がかかっていて、鴨が泳いでいて、そのあたりには各カレッジのボート小屋が並んでいました。夏も冬もボートの練習をする学生がたくさんいました。釣りをする人もいて「何が釣れますか」と聞いたら「うなぎだよ」と言われたのでびっくり。イギリスでもうなぎを食べるんですね。
帰国する頃には赤ん坊も誕生日を迎え、公園を散歩するたびに「なんて可愛い赤ちゃん」って通りかかったおばあさんが声をかけてくださったり。もうきっと来ることはないんだろうなと思いながらケンブリッジを離れたのですが、それからもう何度もお邪魔し、その度に自分の庭のように駈けまわっています。少しずつ変わっていくところもあるけれど、でもやっぱり私にとってはケンブリッジの町は第二の故郷です。
(村上博美さん・1999/5/18)