Cinema ロケ地別INDEX 俳優 A to Z 女優 A to Z Home

『めぐりあう時間たち』The Hours (2002)

監督: Stephen Daldry
脚本: David Hare
原作: Michael Cunningham
撮影: Seamus McGarvey
編集: Peter Boyle
音楽: Philip Glass

Story

時を隔てて準備される3つのパーティー。 1923年のリッチモンド、『ダロウェイ夫人』の執筆にとりかかったヴァージニア・ウルフは午後に訪ねてくる姉たちをもてなすティーパーティーを予定していたが、ロンドンに戻りたいという気持ちは押さえがたいものになっていた。 1951年のロサンゼルス、妊娠中の主婦ローラは子供とともに夫の誕生日パーティーの準備をしていたが、理想的な妻を演じることに疲れ始めていた。2001年のニューヨーク、編集者クラリッサ・ヴォーンはかつての恋人でもある作家のリチャードが名誉ある賞を受賞した記念に親しい人々を招いてパーティーを開こうとしていた。
『ダロウェイ夫人』を軸に、時間を越え、空間を越えた三人の女性たちの運命的な一日が始まる・・・

『リトル・ダンサー』Billy Elliot (2000)のスティーブン・ダルドリー監督が、マイケル・カニンガムのピュリッツァー賞受賞作を映画化。脚本は『プレンティ』 Plenty(1985) 『ダメージ』Fatale(1992)などで知られる著名な劇作家Sirデビッド・ヘア、音楽はフィリップ・グラスと一流のスタッフとキャストが終結した完成度の高い話題作。

Check!

『ダロウェイ夫人』

映画『ダロウェイ夫人』について詳しくはこちらをご覧ください。>>『ダロウェイ夫人』Mrs Dalloway (1997)

クラリッサ・ヴォーンはかつての恋人リチャードに「ダロウェイ夫人」というあだ名を付けられている。ヴァージニア・ウルフのこの小説の主人公の名は「クラリッサ」。そしてクラリッサの夫の名は「リチャード」。 さらに小説のクラリッサ・ダロウェイの親友の名は「サリー」で、2001年のクラリッサの同性の恋人の名前も「サリー」である。

小説の中で投身自殺する青年セプティマスも、AIDSに苦しむ詩人のリチャードも、ともに「ギリシャ語の幻聴」を聴いている。
1951年の主婦ローラの愛読書は『ダロウェイ夫人』。

ちなみに、現代のニューヨークで花屋の店員として登場する女優アイリーン・アトキンスは、映画『ダロウェイ夫人』の脚本を書いたことでも知られる。

『ダロウェイ夫人』和書
『Mrs Dalloway』洋書

ヴァージニア・ウルフの入水自殺

1941年3月28日、SussexのRodmellにあるモンクス・ハウスにいたヴァージニアは、夫と姉のヴァネッサ・ベル宛ての遺書を残し(映画でもレナード宛とヴァネッサ宛の2通の青い封筒が映っている)、ポケットに石を詰めてウーズ川(River Ouse)に投身自殺した。

レナードが「君は二度も自殺未遂をした。だから(リッチモンドで)印刷所を始めたんだ」と言っているが、これは1904年に彼女の父レズリー・スティーブンスが亡くなった時の自殺未遂と、1913年(レナードと結婚した翌年)に精神状態が悪化して自殺未遂した時のことを言っている。

ヴァージニア・ウルフについて詳しくはこちらにまとめました>>ブルームズベリー・グループ (Bloomsbury Group)

リッチモンドへの転居、ホガース・プレス

ヴァージニアの精神状態が悪化したこともあって、ウルフ夫妻は1914年にロンドン郊外リッチモンドのザ・グリーン17番地に転居、翌1915年Paradise Roadの「ホガース・ハウス」と呼ばれる邸宅に転居する。 1917年に夫妻は印刷機を購入し、ここで出版社ホガース・プレスを設立。T.S.エリオットの『荒地(Waste Land)』(1922)を始めとして、ロバート・グレイブスの詩集、キャサリン・マンスフィールドやフロイドの著作なども手がけている。

しかし、映画の台詞にもあるように「都会の暮らしが恋しい、この街では息が詰まりそう」とリッチモンドでの暮らしに耐え切れなくなり、1924年に再びロンドンのブルームズベリー地区に戻る。 ヴァージニアが生まれ育ったのはロンドン中心部のバッキンガム宮殿にも程近いハイドパーク・ゲイト(日本でいえば千代田区という感覚か)であり、都会の暮らしが恋しくなったのも無理はないかもしれない。

『自分だけの部屋』 A ROOM OF ONE'S OWN (1929)

「女性が小説を書くために必要なのは、500ポンドの年収と鍵のかかる自分だけの部屋」・・・随筆『私だけの部屋』は、ヴァージニア・ウルフが1928年10月にケンブリッジのニューナム・コレッジとガートン・コレッジで行った講演がもとになっている。 映画の中でもみられるように彼女は実際にかなり神経質で、執筆にはひとりになれる環境が必要だったという。

『自分だけの部屋』ヴァージニア・ウルフ・コレクション
ヴァージニア ウルフ (著), 川本 静子 (翻訳)みすず書房

ヴァネッサ・ベルとその子供たち

ウルフ夫妻が住むリッチモンドの家に、ヴァージニアの姉で画家のヴァネッサ・ベルとその子供たちが尋ねてくる。 ヴァネッサ・ベルについて詳しくはこちらをご覧ください

三人の子供たちのうち、男の子2人は夫クライブ・ベルとの息子ジュリアン・ベル(のちにスペイン内戦で死亡)、クウェンティン・ベル(のちに文筆家になる)。 "You look perfect Angel"と天使の羽の付いたドレスを着ていた女の子はその名も天使のように"Angelica"。 彼女は画家のダンカン・グラントとの娘で、のちに父の恋人だった作家のデビッド・ガーネットと結婚する。

紅茶のある風景

ヴァージニアはちょうどラム肉のパイを準備していたメイドのネリーに、訪ねてくるヴァネッサ・ベルとその子供たちをもてなすためにチャイナ・ティーとジンジャーを用意するように言いつける。ジンジャーは子供たち用で、ネリーはそのためにわざわざロンドンに買いに行かされた。

ヴァネッサたちは予定よりかなり早く着いてしまう。 鮮やかな中国風の彩色を施されたティーカップでお茶を飲んでいる。

鉄道のある風景

ロンドンへの恋しさが募り、ヴァージニア・ウルフは発作的にロンドン行きの鉄道のホームに来てしまう。 レンガ造りのクラシカルなホームで、ロンドン終点はヴォクソール駅。

レイフ・パートリッジ

レナード・ウルフとともに印刷機の側にいた青年は、1921年に画家のドーラ・キャリントンと結婚したレイフ・パートリッジ。元軍人だが後にホガースプレスに勤めるようになっていた。キャリントンもホガース・プレスの出版物の装丁を手がけていた。

演じているChristian Coulsonは、『ハリー・ポッターと秘密の部屋』(2002)(若きヴォルデモート役)、The Forsyte Saga(2002)等に出演している期待の若手俳優。

>>『キャリントン』Carrington (1995)

同性へのキス

この作品の核となる三人の女性たちがそれぞれ同性と口づけする場面がある。

姉のヴァネッサ・ベルとキスしていたヴァージニア・ウルフは、幼い頃に母を亡くしたりしたトラウマ等もあってしばしば同性愛的な傾向があったようである。 小説『オーランドー』(映画『オルランド』Orlando (1992))のモデルになった作家のヴィータ・サックヴィル=ウェスト(シシングハーストを作った女性としても有名)との関係が良く知られている。

ローラ・ブラウンは親友のキティに思わずキスしてしまうが、1950年代の保守的なアメリカ社会はそのような想いを表面に出すだけでもご法度という時代。2001年、現代に生きるクラリッサ・ヴォーンは同性の恋人と10年も同居しており、人工授精で娘をもうけている。

ロケ地

Luton

・・・ウルフのリッチモンドの家として

Hertfordshire

・・・サセックスにあるウルフの"モンクス・ハウス"として
実はダルドリー監督の自宅。現在のモンクス・ハウスはウルフの博物館となっているため使用できなかった。

リッチモンド

Richmond Hill、Richmond High Street

アメリカ

Fort Lauderdale, Florida
New York City, New York

Awards

米アカデミー賞:主演女優賞受賞(ニコール・キッドマン)、8部門ノミネート(監督賞、作品賞、助演男優賞、助演女優賞、脚色賞、作曲賞、衣装デザイン賞、編集賞)

英アカデミー賞(BAFTA):主演女優賞受賞(ニコール・キッドマン)、音楽賞受賞(フィリップ・グラス)、9部門ノミネート

ベルリン国際映画祭:銀熊賞(主演女優賞)受賞(ニコール・キッドマン/ジュリアン・ムーア、メリル・ストリープ)

ゴールデン・グローブ賞:作品賞受賞、5部門ノミネート

キャスト

1923年リッチモンド、ホガース・ハウス

Nicole Kidman .... Virginia Woolf
Stephen Dillane .... Leonard Woolf(Virginiaの夫)
Miranda Richardson .... Vanessa Bell (Virginiaの姉・画家)
Charley Ramm .... Julian Bell(Vanessaの長男)
George Loftus .... Quentin Bell(Vanessaの次男)
Sophie Wyburd .... Angelica Bell(Vanessaとダンカン・グラントの娘)
Linda Bassett .... Nelly Boxall (メイド)
Lyndsey Marshal .... Lottie Hope(メイド)
Christian Coulson .... Ralph Partridge (ドーラ・キャリントンの夫)
Michael Culkin .... 医師

1951年ロサンジェルス

Julianne Moore .... Laura Brown(主婦)
John C. Reilly .... Dan Brown(ローラの夫)
Jack Rovello .... Richard Brown(ローラの息子)
Toni Collette .... Kitty Barlowe(ローラの親友)
Margo Martindale .... Mrs. Latch(ローラが息子を預けに行ったおばさん)
Colin Stinton .... ノルマンティー・ホテル従業員

2001年ニューヨーク

Meryl Streep .... Clarissa Vaughan(編集者)
Ed Harris .... Richard(クラリッサの元恋人・AIDSに冒された詩人)
Allison Janney .... Sally Lester(クラリッサの恋人)
Claire Danes .... Julia Vaughan(クラリッサの娘)
Jeff Daniels .... Louis Waters (リチャードの元恋人)
Eileen Atkins .... Barbara(花屋の店員)
Carmen De Lavallade .... クラリッサの隣人
Daniel Brocklebank .... Rodney
Kate Super .... 子供時代のクラリッサ

参考資料とソフト

imdb.com/Title?0274558

オフィシャル・サイト
www.jikantachi.com
www.thehoursmovie.com

DVD

サウンドトラック

『めぐりあう時間たち』DHC完全字幕シリーズ(字幕対訳)

原作『めぐりあう時間たち―三人のダロウェイ夫人』
マイケル カニンガム (著), 高橋 和久 (翻訳)集英社

The Hours洋書・オーディオブック

『ダロウェイ夫人』和書
『Mrs Dalloway』洋書

 

(2002年 アメリカ 114分)


Cinema ロケ地別INDEX 俳優 A to Z 女優 A to Z Home

Copyright (c)2003 Cheeky All Rights Reserved
当サイトに掲載されている情報・記事・画像など、全ての内容の無断転載を禁止します。
引用される際は、必ず出典として当サイト名とURLを明示してください。