Stromeferry (no ferry)

さて、A87を少し戻って右折しA890を北上する。 Lochを見たり小川を渡ったりして山中を進み、Loch Carronの入り江に出ると、そこはStromeferry Station。 なぜこの道に立っていた看板を見て突然私が吹き出し、その後も時々思い出し笑いをしていたのかは、夫の知らぬところ。
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Stromeferry (no ferry)
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「Stromeferry (no ferry)」・・・「ここは"Stromeferry"という地名だがフェリーはない」という意味の看板だが、『サイコ2001Complicity (2000)という映画で、ここを訪れた人物が「Stromeferry, no ferry」と呟いていたのだ。 その時は単なる言葉遊びかと思ったが、実際にこんな道路標識があるとは思わなかった。


Lochcarronの街並

インヴァネスからやってきた小さな列車が、ゆっくりと目の前を通り過ぎてゆく。

そのままA890をLoch Carron湾沿いに進むと三叉路になっており、今朝教えてもらったApplecrossに行くために左折、A896に入る。 この村の名はわかりやすく"Lochcarron"。 すぐ手前にキャンピングカーが何台か停まっている場所もあった。小さな半島を縦断した先のLoch Kishorn湾もきれい。

 

Applecrossに至る道は冷や汗もの

そのLoch Kishorn湾の付け根からはじまる細い道(道路番号なし)が、噂のApplecrossに至る道だった。小川を越え湿原を渡り、小道は山の方へ向かう。 こんな行き違いのできないほど細い道で(Single Truck Road)、ガイドブックにも載っていないような場所なのに、キャンピング・カーや乗用車が続々と入っていく。 知る人ぞ知る、なのだろうか。 見下ろせば湿原を歩む羊、見上げればそそり立つ山々。 ゴロゴロとした岩が山肌の緑にアクセントを加えている。 高く昇るば昇るほど、景色は浮世離れしてくる。

絶景に歓声を上げていたのも束の間、急に霧が出てきて視界は極端に悪くなった。 そのうち霧も晴れるだろうと思っていたのだが、ますます濃くなるばかり。 とうとう前方20m見えるか見えないか、という事態に陥ってしまった。 困ったのはこの道が行き違いができないほど細いということ。 この濃霧の中で前から来る車に気づかなければ、正面衝突してしまう。 細心の注意を払って要所要所でクラクションを鳴らしながら、途中で追いついた前の車の後について進んだ。 前に車がいれば盾になってくれるので、正面衝突の心配はなくなるからだ。 対向車がいたら最寄りの待避所に車を寄せてやり過ごす。 すれ違う車を見るにつけ、よくこんな大型車(キャンピングカーも多い)で、こんな霧の細い道を走るよなぁと呆れてしまう。

やがて直前を走っていたイギリスには珍しい幅の広いアメ車が、ほうほうの体で引き返し始めた。 ここから引き返すにしても、ふもとまではかなりの距離があるというのに。 行くも地獄、戻るのも地獄。 対向車は怖いがそれでも進むしかない。 目を凝らしてゆるゆる進む。 ああ、せめてフォグ・ランプ(霧の時点ける黄色いランプ)がついていたら! 冷や汗をかきながらの行軍だったが、願いが通じたのか徐々に霧が晴れてきて、無事にApplecrossに到達できた。 ヒヤヒヤしたが、忘れられない絶景ポイントとなった。

 

最果ての地はヒッピー、ヒッピー、シェイク

当初の予定ではApplecrossに着いたら同じ道を引き返し、Loch KishornからA896を北上・・・というルートを考えていたが、とてもあの濃霧の中を戻る気にはなれない。 時間はかかるかもしれないが、海沿いにLocal Roadを回ることにした。

Applecrossの小さなインフォメーション・センターに車を停めて、緊張を強いられた全身の筋肉をほぐしていると、林道を下りてくる怪しい人影が。 齢(よわい)五十はとうに越えているであろうに、いつ鋏を入れたのかわからないほど伸ばした白髪まじりの髪と不精髭。 ボロボロの衣服を纏って、手にしたダンボールの中には手作りの土産物のような品々。 こ、これはもしかしてヒッピーの生き残り?

ヒッピーというのは1960年代後半に現れた反体制派の若者たち。 絞り染めの手作りの服とか、フラワー・チルドレンとか、ベトナム戦争ハンターイとか、精神世界にトリップしたりとか・・・。 そういえば自由を求めるイギリスのヒッピーたちは、体制を嫌って北へ北へとスコットランドの最果てを目指し、アラプールあたりに住みついてコミュニティを作っていたと聞いたことがある。 この老人は服装からみても、年齢的にみても当時のヒッピー・ムーヴメントの生き残りに違いない。

彼が歩いて行く先を見ると、何台かのトレーラーハウスのようなものが。それを牽引する車がどこにも見当たらないことを考え合わせると、これはヒッピーたちの小集落なのだろう。 事実、このApplecross回りのローカル・ロード沿いには、いくつかのトレーラーハウスからなる小集落がいくつもあった。 世俗を超越して仙人のように生きる老ヒッピーたちの終(つい)の棲家として、これほど似つかわしい場所があるだろうか。 淋しい、あまりにも淋しい地の果て。

海岸沿いの荒涼とした風情を際立たせるように、ときおり廃屋が現れては消えてゆく。 屋根が破れ、石壁が崩れ落ち、海風に吹きさらしにされている廃屋。 たまにほんの2〜3軒くらいずつ、人が住む集落も。 厳しい自然と孤独と対峙する、最果ての地に暮らす人々の暮らしは、想像を絶するものが・・・


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