スターリング城とハイランダー連隊博物館

スコットランドで一二を争う壮麗な城というだけあって、観光客の数もはんぱじゃない。 城のいわれや建物の解説をするガイド率いるミニ・ツアーのような団体がいくつもあるので、そっと立聞き。 イギリス人はこうした説明に熱心に聞き入るのが大好きだ。
入ってすぐ気がついたのだが、この城の規模ときたら。 いくつものホール、チャペル、宮殿、詰所などから成る広大なものだった。 展示については模型やパネル、人形を多用しており、ちょっとぴかぴかしたアミューズメント・パークがかっているのが (個人的には)いまひとつだったが、古来からの戦略的要所というだけあって、それはそれは荘厳な見所いっぱいのお城。 大きなタペストリーの下にある玉座は、その部屋に入ってきた人達が記念写真を撮る絶好のスポットとなっていた。
崖の上に屹立する城郭
   
城内で一番興味深かったのは、War Museum(戦争博物館)。 スターリング城は今なお現役で、「アーガイル&サザーランド・ハイランダー連隊」の本部として使われているため、この連隊に関する資料館が設けられているのだ。 銀器などのお宝もここに納められている。 イギリス人の心に深い傷を残した"The Great War"こと第一次大戦、そしてそれに続く第二次大戦。 軍服やサーベル、ナイフ、駐留先で使ったと思われる調理用具のセット、兵士が携帯した日用品・・・スコットランド伝統の"Scottish Dirk"と呼ばれるナイフで、鞘に小さなフォークなどがくっついているものも。

そしてハイランダー連隊の軍服といえば当然キルト! 時代別に用意されたマネキンがもうたまらない。 現代英国軍の迷彩服を着たマネキンたちに妙に親近感を覚えたと思ったら、うちのクロゼットにも全く同じものがあったっけ。 普通の迷彩と砂色のデザート迷彩。 ポケットがたくさんあって膝まわりがゆったりして機能的なデザインは、アウトドア遊びにも使えるのだ。 (ミリタリーマニアというわけではないが中田商店にて購入。)

War Museumには、表のお土産コーナーで買えないような商品もあるので要チェック。 ティータオルも何種類かある。 売店脇にあった新兵募集のリーフレットをすかさずゲット。 表紙に載っている膝丈キルトを身に着けた若い兵士たちの凛々しいこと。 ほれぼれしてしまう。

スターリング城 (Stirling Castle)
メアリー女王が生後9ヶ月で戴冠式を行ったのもこの城。
スコティッシュ・エクスプローラー・パス適用施設(Historic Scotland)
当日券はアーガイルズ・ロッジングズと共通。
 
アーガイル&サザーランド・ハイランダー連隊
The Argyll and Sutherland Highlanders
www.argylls.co.uk(城とWar Museumについて)
www.army.mod.uk/infantry/argyll/
www.aboutscotland.com/argylls/(雑誌"The Thin Red Line"もこちらから)
 

 


パトカーに乗ってしまった

夕方にロンドン行きの飛行機を予約してあったので、スターリングの次はグラスゴーに入り、ウィロー・ティールームやグラスゴー・スクール・オブ・アートなど、チャールズ・レニー・マッキントッシュの建築物を見学して回るのを楽しみにしていた。 "していた"と過去形なのは、その思惑が思いも寄らないアクシデントによってふっとんでしまったからだ。

小雨がパラつきだしたグラスゴー行きの幹線道路A80。 比較的車の量も多く、ゆるゆると走っていたところで前の車が突然急ブレーキ。 映画や小説で事故の瞬間がスローモーションで描かれることがよくあるが、この時もまさにそんな感じだった。 とっさにハンドルを右に切りガードレールのある中央分離帯に寄せたところで、先行車の右後ろに鈍い音を立てて当たる。 続いてすぐ後方から衝撃。 後ろからきたバンがうちの車の左端にぶつかり、さらにそのあとにボルボがもう一台・・・。 うちの車の前に二台停まっているので、合計5台の玉突き事故になってしまったらしい。 まさに悪夢としか言いようがなかった。

ああ、警察やレンタカー会社に連絡しなければ。 でもここは周りに商店も人家もない自動車道・・・呆然としていたら、後ろの車の運転手がすぐ携帯電話で警察を呼んでくれた。 前のシトロエンに乗っていたご婦人も泣きながら携帯で誰かと話している。 イギリスでの携帯普及率は意外に高いようだ。 不幸中の幸いと言おうか、もともとたいしたスピードも出ていなかったうえに、シートベルトもしていたので、打撲やむち打ちなどの症状は全くなかった。 後続車二台の運転手たちもピンピンしている。 ただ、彼らの車の惨状といったら。 頑丈にできているはずのボルボまで前面が激しくつぶれてしまっている。 大きなバンにまともに当たってしまっては、いくらボルボとはいえ大破するのも無理はない。 同時に、もしあのバンがうちの車に真直ぐぶつかっていたら・・・考えるだけでもぞっとする。 レンタカーはボルボと違ってぺこぺこの安物なのだ。 家人があのような絶妙のタイミングでハンドルを切っていなかったら、ふたりとも大ケガしていただろう。

まもなくパトカーと救急車が到着し、事情聴収と現場検証が始まった。 小雨が降っていたので、それぞれの車に警官が入ってメモを取る。 帽子についているアザミのバッジが眩しい。
「日本人の交通事故を扱ったのなんて初めてだよ。ハハハ。こんなところまで車で来る人は少ないからね。」 熊のように体が大きくて頼りがいのありそうな警官は、珍しい東洋人旅行者にたいへん丁重に接してくれ、事情聴収と言っても職業・住所・電話番号・旅行期間くらいしか聞かれなかった。 いざとなったら自分の運転の正当性を必死で説明しなければいけないかと身構えていたのだが、拍子抜けした。日本で事故をおこしたら、○メートルくらいのところで相手が○○したのが見え、スピードは○○キロくらい出ていて・・・と、細々と説明しなけらばいけないと聞くが。 しかも、レンタカー会社にも代わりに全部連絡を入れてくれるという!

おいおい泣いているご婦人だけ念のため救急車で病院に運ばれたが(当たりは弱かったものの、シートベルトをしていなかったのかもしれない)、他のドライバーたちは幸いにも誰も怪我をしていなかったので、みな"この事故で病院に運ばなくていい"という書類にサインして、レッカー車の到着を待つ。 うちの車だけはなんとか普通に運転して道路脇に寄せることができたが。

ただ心配だったのは、夕方の飛行機のこと。 警察に事故証明をもらって、レンタカー会社に書類を提出して手続きして・・・と、とてもではないが間に合いそうにない。 ところが私たちがその日の午後の便に乗ることになっていると知った警官たちは、急いで超法規的措置(?)をとってくれた。 パトカーで最寄のレンタカーの営業所まで連れて行ってくれ、書類の書き方まで手取り足取り教えてくれたうえに、空港まで乗っていく代車を頼んでくれた。 しかし小さな事務所のこと、車は全部出払っている。 すると、なんと、そこの営業所の所長らしき人が自分の車で空港まで送り届けてくれることになったのだ! もうあまりにありがたくて涙が出そう。 送ってくれた警官二人に何度も御礼を言い、急いで荷物を積み替えた。 時間は迫っている、間に合うか?
スコットランド経済の中心地、グラスゴー行きの幹線道路は渋滞気味でのろのろ気味。 所長はさすが地元を知り尽くしているらしく、いったん裏道に下りて走りに走る。 一時間以上かかっただろうか、チェックイン締切まであと10分、ぎりぎりセーフのところで空港到着。 もし代車を借りて自ら運転していたら、とても定刻には着けなかっただろう。 彼の親切は決して忘れない。

旅行中の玉突き事故というのは非常にショッキングな経験だったが、同時にスコットランドの人々の人情と優しさに触れると言う貴重な体験でもあった。 北の大地に生きる人々の熱い心・・・本当に、ありがたくてありがたくて、今思い返しても目頭が熱くなる。

 

#このケースはあくまで特別な措置だったようで、一般的な参考にはならないことをご了承ください。 普通は警察署に出向いて書類を作ってもらったり、その書類を自分でレンタカー会社に届けたりしなければいけないそうです。 現場検証ももっと時間がかかるかもしれません。

 


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