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タイトル*


『ブリガドーン』Brigadoon (1954)

監督: ヴィンセント・ミネリ
原作戯曲: フレデリック・ロウ&アラン・ジェイ・ラーナー
脚本: アラン・ジェイ・ラーナー
撮影: ジョセフ・ルッテンバーグ
音楽: ジョン・グリーン

Story

NYからやってきた二人のアメリカ人旅行者トミーとジェフは、スコットランドのハイランド地方で狩猟を楽しんでいる間に地図にない不思議な村に迷い込む。 トミーは美しい娘フィオナと恋に落ちるが、実はこの村は100年に一度だけ目覚める伝説の村だった。はたして愛は奇跡を呼び起こせるのか・・・?

のちに『マイ・フェア・レディ』My Fair Lady(1964) で大ヒットを飛ばすラーナー&ロウによるブロードウェイ・ミュージカルの映画化。ジーン・ケリーらミュージカル・スターによる歌とダンスが見所。

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スコットランドらしさ

現代(1950年代)のNYからやってきたふたりがたどり着いた伝説の村ブリガドーンは、100年に一度しか目覚めないため、まだ1754年という設定。 フィオナも1732年生まれということがわかる。 キルトを着た村人たちがわいわいと集うマコナキー広場で催される市場の様子もほほえましい。村にはHighland Coo(ハイランド地方独特の毛の長い牛)の姿も。 フィオナは妹の結婚式のためにヒースを摘みに山に行き、トミーと愛をはぐくむ。 セットだがヒースの花でピンク色に染まった山をバックに踊る名場面は見逃せない。

「ブリガドーン」

架空の村の名前「ブリガドーン」は、いかにもスコットランドにありそうな地名。スコットランドには「Bridge of **」という地名が多く、その変形で「Brig **」(Brig o' Turk、など)という地名も。どちらも橋のたもとにあったことから名づけられているらしい。 このブリガドーンと外界との境界も一本の石橋だった。

撮影

スコットランドロケはなく、すべて屋内セットで撮影されている。

音楽

"I'll Go Home With Bonnie Jean"をはじめとして、"The Heather on the Hill"、"Once In The Highlands/Brigadoon"など美しいナンバーがいっぱい。

Awards

米アカデミー賞:3部門ノミネート(美術監督・装置賞、衣装デザイン賞、録音賞)
米ゴールデングローブ賞:撮影賞受賞

キャスト

Gene Kelly .... Tommy Albright (アメリカ人旅行者)
Van Johnson .... Jeff Douglas (アメリカ人旅行者)

Cyd Charisse .... Fiona Campbell (Tommyと恋に落ちる娘)
Virginia Bosler .... Jean Campbell (フィオナの妹)
Albert Sharpe .... Andrew Campbell (フィオナの父)

Jimmy Thompson .... Charlie Chisholm Dalrymple (ジーンの婚約者)
Hugh Laing .... Harry Beaton (ジーンに想いを寄せていた青年)
Barry Jones .... Lundie先生

参考文献・ソフト・関連商品情報

国内盤DVD

サウンドトラックCD

 

(1954年 アメリカ 108分)


『掟/ブレイキング・ザ・コード』Breaking the Code (1996)

監督:ハーバート・ワイズ・・・デレク・ジャコビの『修道士カドフェル』シリーズ、『モース警部』シリーズなど
脚本:ヒュー・ホワイトモア・・・『チャーリング・クロス街84番地』『ジェイン・エア』
原作:ヒュー・ホワイトモア(戯曲)、Andrew Hodges _Alan Turing: The Enigma_

 

Story

"コンピューターの父"と呼ばれた天才数学者アラン・チューリング。エニグマ・コードを解読するという大戦中の輝かしい功績にもかかわらず、戦後は同性愛者と謗られ悲運の死を遂げた彼の生涯を、少年時代(1929年Guildford)、大戦中の国立暗号研究所勤務時代、晩年(1950年代前半マンチェスター)と時代を交錯させながら描いた作品。
原題「Breaking the Code」は、「暗号(Code)を解読する」という意味と、「社会的な掟(Code)を破る」という二重の意味を含んでいる。

 

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アラン・チューリングについて


Bletchley Parkにあるチューリングの像

*原作者のAndrew Hodges氏のご厚意により、Web版の記事より一部転載・訳出させていただきました。
>>The Alan Turing Home Page(by Andrew Hodges)

Alan Turing (1912-1954)
ドイツ軍の暗号エニグマの解読に多大な貢献をしたことで知られる天才数学者。「コンピューターの父」とも称えられる。

1912年6月23日ロンドンに生まれる。両親は仕事でしばしばインドへ渡航していたため、イングランドに残されたアラン兄弟は孤独な少年時代を送っていた。1926年から1931年までDorsetにある名門パブリックスクール、シャーボーン校に在籍。(ここで知り合った親友クリスは1930年に若くして亡くなる。)その後奨学金を受けケンブリッジ大学 King's Collegeに進学。在学中はよくカントリーサイドを自転車で走ることを好み、花粉症予防のためガスマスクを付け、タイム計測用の目覚し時計を腰に付けていたとか。(本作でも、母親がアランが長距離自転車をこいでいたことについて触れる場面がある。)1936年にアメリカのプリンストン大学に入り、そこで博士号(Ph.D.)を取る。

1938年にイギリスに戻り、Bletchley Parkにあるイギリス軍の国立暗号研究所"Station X"で、ドイツのエニグマコードの解読に尽力し、彼が開発した暗号解読器"The Bombe"は連合軍を勝利に導いた。1944年に世界初のコンピューター「Colossus」を作り上げ、1946年にOBE勲章を授与される(本作では遺品としてこの勲章が母に渡される場面が)。

終戦後はマンチェスター大学で大型コンピューターの研究に携わり、人間の脳とコンピューターの情報処理の仕方に共通点が多いことを見出し、仮想上の万能計算機"チューリング・マシーン"を開発。

1952年(39歳)に同性愛者であると自らのセクシャリティを告白したことで逮捕され、懲役刑にならないかわりに、性的性向を"矯正"し性欲を抑えるためにエストロゲン(女性ホルモン)服用を強制される。(本作でも触れられているように、ホルモン投与で胸が大きくなってしまった)この屈辱的な措置もあってか、1954年6月7日チェシャーのWilmslowにて青酸カリに浸したりんごを食べて死亡。自殺と推定される。(享年41歳)

1993年、彼の功績を称えてマンチェスターの環状道路の一部に、"Alan Turing Way"と名が付けらた。

Bletchley Parkのティータオル
エニグマ、チューリング、ノックスなどが描かれている

 

ブレッチレー・パークとエニグマ、Uボート

ブレッチレー・パークは、Buckinghamshireのミルトン・キーンズ近郊にあるマナーハウスを、1939年8月軍が接収して国立暗号研究所(GCCS: Government Code and Cypher School)として1946年まで使用していたもの。オックスフォード、ケンブリッジなどからチューリングをはじめとする非常に優秀な人材を集めて暗号の解読研究にあたっていた。戦時中は"Station X"と呼ばれ、極秘中の極秘事項としてひた隠しにされていた。1941年5月に英国海軍が命懸けでドイツ軍の潜水艦"Uボート"から持ち帰った暗号機「エニグマ」を研究し、ついに解読に成功し連合国側を勝利に導いた。窓にはすべて斜めにテープが貼られ、爆撃で硝子が飛び散らないようになっているのも時代を感じさせる。
参考資料:http://www.bletchleypark.org.uk/

ブレッチレー・パークとエニグマを扱ったサスペンスに『エニグマ』 Enigma (2001) という作品もある

参考:
アメリカ映画『U-571』(1999)は、こともあろうに「米国海軍がUボートからエニグマを奪取し死闘の末持ち帰った」というとんでもない設定の物語で、ブレア首相も下院本会議で「英国に対する侮辱」と認めるなど、関係者から多大なる抗議を受けたいわくつきの作品。ラストに「この作品を亡くなった連合国軍人に捧ぐ」というメッセージを入れたのも、かえって詭弁っぽさを際立たせているような。(確かにアメリカも"連合国側"の一員だったかもしれないが、実際はUボートからのエニグマ奪取作戦には全く参加していない。)

同性愛が犯罪とされた時代

同性愛を禁じる法律の歴史
1533年…肛門性交を行った者は、対象(人間・動物)を問わず死刑とする法律が発布される
1885年…男性同士のわいせつ行為を禁じる法律発布。違反者は懲役2年に(オスカー・ワイルドはこの法律により、二年間の懲役刑に)
1967年…イングランドとウェールズにおける21歳以上の男性同士の私的な同性愛行為が解禁に。しかし異性間の性行為の最低同意年齢が16歳であるのに対し、同性間は21歳と、まだ差別は残る。
1998年…同性間の性行為の最低同意年齢を異性間と同じ16歳に引き下げる法律が、下院で可決。法の下での平等を獲得。(実際に法改正がなされたのは2000年11月)

チューリングが自らのセクシュアリティを告白したのは、まだ同性愛行為が犯罪だった1952年のことだった。(イギリス上流階級での同性愛はそれほど珍しくもなかったが)

ゲイであることが機密保持上の問題に

1952年にチューリングがゲイであることを告白したのは、同性愛を禁じる法律に触れるというだけでなく、彼が情報部の監視下に置かれる原因ともなった。当時は東西関係が緊張していた冷戦時代で、互いに熾烈なスパイ合戦が繰り広げられていた。チューリングと同じケンブリッジ大学出身の同性愛者ガイ・バージェスが、MI6に潜入していたダブルスパイであることが発覚したのが、1951年。機密漏洩防止に神経質になっていた英国情報部が、チューリングが寝物語に敵側スパイに情報を漏らしかねないと恐れたのも無理はない時代背景があった。

しかし同性愛者だからといって機密漏洩を危惧するのは早計で、1960年代には女性を通じて東側に情報が流れたスキャンダル、プロヒューモ事件(参考:映画『スキャンダル』)も起こっている。

ケインズとリットン・ストレイチー

チューリングにゲイであることを告白しないように助言した上司のノックス自身も、のちに同性愛者だったことがわかる。パットの台詞を借りれば「若い頃のノックスはメイナード・ケインズとリットン・ストレイチーの両方とロマンスがあった」ということだが、ともにケンブリッジ出身のケインズ(経済学者)とストレイチー(批評家・伝記作家)は、実際によくひとりの男性をめぐって恋の鞘当てを演じていたらしい。彼らが親しく交際していたブルームズベリー・グループのメンバーが描かれている作品には、『めぐりあう時間たち』The Hours (2002) 『キャリントン』Carrington (1995) 『愛しすぎて 詩人の妻』 Tom & Viv (1994) 『ヴィトゲンシュタイン』 Wittgenstein(1993)などがある。

詳しくは>>ブルームズベリー・グループ (Bloomsbury Group)

白雪姫の毒リンゴ

チューリングは青酸カリに浸した「毒リンゴ」を食べて命を落とした。彼がロン・ミラーと出会った時に、映画館でかかっていた作品は、毒リンゴを食べて死んだお姫様の物語『白雪姫』。またラスト・シーンで流れていた歌は、その『白雪姫』のテーマソングである「いつか王子様が(Someday my prince will come)」・・・この演出は絶妙。テーブルの上に残されたのは、食べかけのトーストとベイクドビーンズ。

原作戯曲

原作はヒュー・ホワイトモアによる戯曲。舞台版"Breaking the Code"でもデレク・ジャコビがチューリングを演じ、1986年からウェストエンド(ロンドン)のヘイマーケット、ブロードウェイ(NY)のニール・サイモン・シアターへと移りロング・ラン・ヒットとなった。

 

ロケ地

マンチェスター

Awards

1998BAFTA TV Award(英アカデミー賞)2部門ノミネート(主演男優賞、Best Single Drama)

キャスト

Derek Jacobi .... Alan Turing
Prunella Scales .... Sara Turing(母)
Richard Johnson .... Dilwyn Knox (チューリングの上司)
Amanda Root .... Pat Green(チューリングに思いを寄せる同僚・女性)
Harold Pinter .... John Smith(諜報部の役人)
Alun Armstrong .... Mick Ross巡査部長
William Mannering .... 少年時代のAlan Turing
Blake Ritson .... Christopher Morcom(少年時代の親友)
Julian Kerridge .... Ron Miller(Turingがパブで出会って連れ帰った青年)

諜報部の役人ジョン・スミスを演じていたのは、『召使』『できごと』の脚本家のハロルド・ピンター。

チューリングの母親を演じていたプルネラ・スケイルズは、『フォルティタワーズ』でジョン・クリーズの妻役、『浮気なシナリオ』でアンソニー・ホプキンスの妻役を演じていた。

少年時代の親友クリス役には『ディファレント・フォー・ガールズ』でルパート・グレイブズの少年時代を演じたBlake Ritsonが。

参考文献・ソフト

The Alan Turing Home Page(by Andrew Hodges)

www.bletchleypark.org.uk

Book
_Alan Turing: The Enigma_ by Andrew Hodges

 

(1996年 イギリス 88分)

 


『フロム・ヘル』 From Hell (2001)

監督:ヒューズ兄弟(アルバート&アレン・ヒューズ)
脚本:Terry Hayes/Rafael Yglesias
原作:Alan Moore

Story

1888年、ヴィクトリア朝のロンドン。 低賃金労働者や娼婦など社会の底辺であえぐ人々の吹き溜まりとなっているイーストエンドで、ひとりの娼婦の惨殺死体が発見された。 被害者の仲間だった4人の娼婦たちは、恐れおののきながらも犯人を見つけなければと心に誓う。 この事件の捜査に駆り出されたのは、アヘンやアブサンに耽溺し、しばしば幻覚の中で事件の真相を探り出すことができるアバーライン警部。 彼はいつしか赤毛が美しい娼婦メアリー・ケリーにひかれていくが、公安や警察上部からの妨害で、捜査は遅々として進まない。やがて彼は恐るべき事実に行き当たるのだが・・・

イーストエンドを震撼させた「切り裂きジャック」をめぐるダーク・サスペンス。

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5人の殺害現場や、社会背景の解説についてはこちらをご覧ください>>切り裂きジャックについて

イーストエンドの風景

煙突からもくもくと立ち上る煤煙のために霧にかすんだように見えるロンドンの空。 どこからか聞こえてくる鐘の音は、St.Mary-le-Bow教会のものか。

阿片窟、アブサン

アヘンとは、未熟なケシの実の乳液を干して作ったモルヒネを成分とする麻薬のこと。アバーライン警部は、しばしば阿片窟(阿片を吸わせる場所)に通って幻覚の世界を浮遊しているのだが、麻薬の常として当然中毒性があり、阿片中毒にかかって人生を棒に振った人間ばかりが集まる場所となっている。 『鳩の翼』The Wings of the Dove (1997) にもヒロインであるケイトの父が阿片窟に入り浸って廃人状態になっているさまが描かれている。

アブサンは、アルコールの強い緑色のリキュールの一種。 軽い苦味があり、主にフランスで好んで飲まれ、映画『ムーラン・ルージュ』や『太陽と月に背いて』など世紀末のパリを描いた映画には欠かせない小道具。

売春宿の強制捜査

クリーヴランド・ストリートにある売春宿に入ったアンとアルバートのところに、公安警察が大挙してやってきてアルバートを裸のまま拉致していく場面がある。"アルバート"ことヴィクトリア女王の孫クラレンス公は、事実クリーヴランド・ストリートにある売春宿にいるところを警察に逮捕された記録がある。ただし、実際は同性愛者のための宿だったそうだが。

王室とカトリック

イギリスの国王/女王は、同時に英国国教会(アングリカン・チャーチ)の首長も兼ねるため、カトリック信者を伴侶にするなど言語道断。 ゆえに、ヴィクトリア女王の孫で未来のイギリス国王になる予定のプリンス・エディ(クラレンス公アルバート)がカトリック女性アニー・クルック(しかも元娼婦)と秘密裏に結婚していたなんて事が知れたら、大変なスキャンダルに発展しかねない。 彼の周囲の人間たちは、体を張ってもこの事態を収拾しなければならなかった。

切り裂きジャック事件の裏にクラレンス公とアニー・クルック、フリーメイソンが絡んでいるとする説は、『名探偵ホームズ/黒馬車の影』Murder by Decree (1979)と近い。

パブ「テン・ベルズ」

娼婦仲間が通っていたパブ「テン・ベルズ」は、19世紀末のイーストランドに実在したパブ。 実際にメアリー・ケリーもよくここに通っていたという。 このパブはコマーシャル・ストリートにあり、メアリー・ケリーの家からはすぐ近く。1930年代に奇しくも二番目の被害者と同じ「アニー・チャップマン」という名の女性が買い取り、店の名を「ジャック・ザ・リッパー」とした。

マーサ・タブラム事件

1888年8月6日、ジョージ・ヤード・ビルディング(現在のガンソープストリート)の踊り場で、娼婦のマーサ・タブラムが惨殺死体で見つかった事件。 切り裂きジャックの犯行ではないようだが、当時は他の事件と一緒に考えられていた。

エレファントマンとロンドン・ホスピタル

映画『エレファント・マン』The Elephant Man (1980) で有名になった実在の人物ジョン・メリックが登場。「ジョセフ・・・失礼、ジョン・メリック氏は」とあわてて名前を言いなおす場面があるが、彼の本名はJoseph Carey Merrick。Treves医師が回想録を書く際に、JosephをあえてJohnと記述したらしい。ちなみに第一の殺人が起きたのは、このロンドン・ホスピタルのすぐ近く。詳しくは

娼婦たちの同性愛傾向

娼婦仲間のリズがブリュッセルから流れてきた娼婦Adaにキスしたり迫ったりしている場面があるが、実際に娼婦たちの間で同性愛傾向を持つものは少なくなかったそうだ。(参考『恐怖の都ロンドン』)

ユダヤ人への偏見

19世紀末のイーストエンドには、迫害を逃れてやってきたユダヤ系移民が多数住んでいた。 異教徒であること、そしてヨーロッパ諸国に広く蔓延するアンチ・セミティズム(反ユダヤ主義)の影響、そして概して勤勉で教育熱心な彼らが地元のコックニーたちの職を奪ったという反発から、ユダヤ人はしばしば迫害の対象となった。

第二の殺人アニー・チャップマン殺害現場に、革のエプロンが落ちていたことから、犯人はレザー・エプロンを身に着ける職業、すなわちユダヤ人の靴職人や屠畜処理業が疑われた。二重殺人現場にあった落書き「The Juwes are The men that Will not be Blamed for nothing.」をウォーレン警視が慌てて消させてしまったのも、ユダヤ人に対する反感を煽らないためだったというがはたして・・・。

捜査の妨害

事件現場の証拠保全という鉄則を無視して、殺害現場の血痕をすぐに洗い流してしまったり、犯人のものかもしれない白いチョークの落書きをすぐに消させてしまったりと、警察上部からの妨害とも思えることが次々に起こる。

ロボトミー手術(lobotomy)

ロボトミー手術とは、分裂症などの治療のために、大脳の前頭葉を切開し神経繊維を切断する外科手術のこと。人道上の問題から、現在では禁止されている。 アンの口を封じるために、そしてのちにある人物にもこのロボトミー手術が施される場面が出てくる。 

クレオパトラの針

地下鉄エンバンクメント駅のすぐ近くに立つ高さ約20メートルのオベリスクのこと。

この映画の中で「キリストが生まれる1500年前に立てられたもの」と説明されているが、実際にこのオベリスクが刻まれたのは紀元前1475年のことで、エジプト・アレキサンドリア近郊の砂漠に倒れていたものを18世紀初めにイギリスに寄贈された。しかし輸送の問題があったため、実際にロンドンに移転されたのは1878年。この切り裂きジャック事件があったのはそれから約10年後のことなので、このオベリスクは人々の記憶にもまだ新しく噂になることも多かっただろう。

フリーメイソン(Freemason)

参考資料:『フリーメイソン―西欧神秘主義の変容』吉村正和・著

フリーメイソンとは、友愛を信条とした世界主義の結社のこと。起源については諸説あるが、エルサレムにおいてソロモン王が神殿を建立したときの石工組織など、もとは建築関係の同業者組合に端を発しているらしい。

近代フリーメイソンの誕生は、1717年6月24日(聖ヨハネの日)にイギリスにグランド・ロッジが結成された時にはじまる。その後組織はまたたたく間にヨーロッパじゅうに広がり、アメリカに渡って大きく花開いた。 (現在世界には約600万人のフリーメイソン会員がいるが、その2/3はアメリカ人である。)
貴族などの特権階級から、のちにはジョージ二世の皇太子が加入するにいたり、上流階級の社交クラブとしての側面も持つことに。

同時に、啓示宗教としてのキリスト教が退潮期にあった18世紀のヨーロッパで、それまでキリスト教が満たしていた人々の超自然世界への欲求を吸収する形で、さまざまな神秘主義・心霊主義が台頭してきた時代で、フリーメイソン会員による神秘主義的な活動が、のちに秘密結社的とみなされる要素を含むこととなった。

メンバーになるには、目隠しや剣、エプロンを使った独特の参入儀礼があることがよく知られている。(モーツァルトのオペラ『魔笛』はフリーメイソンの参入儀礼をモチーフにしている)会員同士が相手を見分けるのには独特の合図があり、エドガー・アラン・ポー『アモンティラードの酒樽』や、モンティパイソンの"フリーメイソン的挨拶"でも取り上げられている。

フリーメイソンを象徴するマークとしては、コンパス(=道徳)と直角定規(=真理)を組み合わせたものがよく知られている。マイケル・ケイン&ショーン・コネリーの映画『王になろうとした男』では、このフリーメイソンのマークが重要な小道具として使われている。もちろん原作者のラドヤード・キップリングもフリーメーソンの会員。

フリーメイソン会員として歴史的に有名な人物としては、次のような錚々たる名前が挙げられる:キップリング、ロバート・バーンズ(フリーメイソンに捧げる詩を書いている)、コナン・ドイル、ジョナサン・スウィフト、ウォルター・スコット、モーツァルト、ゲーテ、ハイドン、リスト、シベリウス、スーザ、ベンジャミン・フランクリン、ジョージ・ワシントン、セオドア・ルーズベルト、フランクリン・ルーズベルト、トルーマン、マッカーサー、ヘンリー・フォード(自動車王)、リビングストン(NY−パリ無着陸飛行)・・・

アイルランド独立運動

アイルランド独立を目指して樽に火薬を詰める運動家たちの姿も。 19世紀半ばに起きたジャガイモ飢饉のために、イギリスなどに逃れてきたアイルランド移民が急増。 のちにアイルランド独立運動に発展する萌芽がみられる。

原作と、その元になった本

この映画の原作は、アラン・ムーアの同名グラフィック・ノヴェル(=コミック)。さらにこのグラフィック・ノヴェルにしばしば登場する出典としてスティーブン・ナイト著『切り裂きジャック最終結論』がある。 映画『フロム・ヘル』で切り裂きジャックが誰だったかという謎解きのプロットは、ほぼこの書籍に準拠しているらしい。

『切り裂きジャック最終結論』
スティーブン・ナイト (著)/太田 龍 (翻訳)成甲書房(2001/10/01) ISBN: 4880861235

同じくスティーブン・ナイトの著書に『フリーメイソン(原題Brotherhood)』(中公文庫)というものがある。こちらでも切り裂きジャックによる被害者たちの切り刻まれ方がたいそうメイソン式の処刑の儀式に酷似しており、犯人により壁に殴り書きされた文もメイソンのメンバーが読めばぴんとくるもの。警察にもメイソンは深く浸透していて、この一報を聞いた某重要なポストにある人物は自ら現場におもむきその文句を被害者のエプロンで消してしまった… という論が展開されているとか。(情報提供:ぱとさん)

「フロム・ヘル」とは

10月16日に自警団長のジョージ・ラスク宛に腎臓(キドニー)の一部が添えられて届けられた切り裂きジャックからの手紙が、「From Hell(地獄より)」で始まるところからとられた。

 

ロケ地

プラハ(チェコ)

Cheney Road(Wellers Court), London(King's Cross駅裏)
multimap.com

 

キャスト

[警察関係者]
Johnny Depp .... Inspector Frederick George Abberline
Robbie Coltrane .... Peter Godley巡査部長
Ian Richardson .... 警視総監Sir Charles Warren
Vincent Franklin .... George Lusk (自警団のボス)
Terence Harvey .... Ben Kidney (公安警察・フリーメイソンの一員)
Steve John Shepherd .... 公安警察
Danny Midwinter .... Constable Withers

[娼婦たち]
Heather Graham .... Mary Kelly (アイルランド移民の娼婦)
Annabelle Apsion .... Polly (第1の被害者)
Katrin Cartlidge .... Dark Annie Chapman (第2の被害者)
Susan Lynch .... Liz Stride (第3の被害者)
Lesley Sharp .... Catherine 'Kate' Eddowes (第4の被害者)
Joanna Page .... Annie Crook (裕福な画家"アルバート"と結婚した娼婦)
Estelle Skornik .... Ada (ブリュッセルから流れてきた娼婦)

Ian Holm .... Sir William Gull (王室御典医)
Jason Flemyng .... John Netley(切り裂きジャックの御者)
David Schofield .... Mcqueen (イーストエンドのギャング)
Ralph Ineson .... Gordie (イーストエンドのギャング)
Liz Moscrop .... ヴィクトリア女王
Mark Dexter .... プリンス・エディ(クラレンス公アルバート)

Paul Rhys .... Dr. Ferral(アンにロボトミー手術を施した医師)
Samantha Spiro .... Martha Tabram (殺害された娼婦)
Anthony Parker .... John Merrick(エレファントマン)

参考文献・ソフト

オフィシャル・サイト
www.fromhellmovie.com
www.foxjapan.com/movies/fromhell

サウンドトラックCD

 
『図説 切り裂きジャック』
仁賀 克雄 (著) ふくろうの本 (2001/05/01) 河出書房新社
日本で唯一のリッパロロジスト(切り裂きジャック研究家)によるわかりやすく面白い本。おすすめ。

『恐怖の都ロンドン』
スティーブ・ジョーンズ著/友成純一・訳/ちくま文庫(1997/05/01) 筑摩書房 ISBN: 4480032649

『切り裂きジャック最終結論』
スティーブン・ナイト (著)/太田 龍 (翻訳)成甲書房(2001/10/01) ISBN: 4880861235

>>原書:_Jack the Ripper: the Final Solution_ by Stephen Knight
ペーパーバック (1979/02/20) HarperCollins

『知られざるフリーメーソン』
スティーブン・ナイト (著)/太田 龍 (翻訳)中公文庫(1990/05/01) ISBN: 4122017114
・・・品切れ?古書店をあたってみてください

>>原書:_The Brotherhood_ by Stephen Knight
ペーパーバック (1985/02/14) HarperCollins

『フリーメイソン―西欧神秘主義の変容』
吉村正和(著)講談社現代新書 (1989/01/01)

 


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