「今日はヴェルサイユはたいへんな人ですこと。」

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さて、今日は現金を使わない日程を組まねばならなくなったので、蚤の市はパスして突然ヴェルサイユに行くことにした。 フランス政府観光局に資料請求した時に送ってもらった「ひとり歩きのParis」という小冊子は実に役に立った。 ガイドブックは買わなかったし持って行きもしなかったのだが、突然「○○に行きたい」という時にこの冊子を見れば一発で交通経路がわかる。

ルーブルからメトロ(地下鉄)でSt. Michaelまで行き、地上に出てRER(エルウーエル、郊外にも行く電車)の駅に向かう。 このあたりはカルチェラタン地区ということで、若者があふれた活気に満ちた地域のようだ。 2.70ユーロ(ふたりで)の切符代までカード払い。

パリ近郊最大の観光地に向かう電車だというのに、乗ったRERは不安になるほど閑散としている。 ひとり、ふたりと降りてゆき、途中から同じ車両にいた人たちはみないなくなってしまった。 4.30に終点のVersailles-Rive-Gauche  駅着。 駅から少し歩くと、とても夕方とは思えない眩しい午後の光を浴びて、絢爛豪華な宮殿が目の前にそびえていた。

チケット売り場はそれほど込んでもいなかったが、宮殿に入ると中は観光客でごった返していた。 電車がガラガラだとて不審がる必要はなかったのだ。 ほとんどの人はここの駐車場に何十台と停まっているような大型バスで来るらしい。 入場料はひとり5.30ユーロ。 夕方は割引になるそうだ。 きんきらりんの眩暈がするようなロココ装飾はフランスならでは。 有名な「鏡の間」に張り巡らされた鏡、天井から釣り下がるシャンデリアと、華やか好みのフランス王室の人々の生活が偲ばれる。


鏡の間

ヴェルサイユといえばマリー・アントワネット、そして「ベルサイユのばら」だ。 この豪華絢爛たる宮殿を造ったのは、大デュマの「鉄仮面(仮面の男)」、「アンジェリク」にも登場する太陽王ルイ14世。 いやがおうでもロマンを掻き立てられるではないか。

夕方ということで、庭園の方は帰りの時間を気にしないような個人客がほとんどで、のんびり、まったりとした雰囲気が漂っていた。 貸ボート、レンタサイクル、ジョギング、読書、昼寝、日光浴と、長い夏の午後を満喫しているようだ。 脇の道路側から直接庭園に入れる門も開放されていたので、のんびりしているのは地域住民かもしれない。 ちょっとした軽食がとれるカフェなどもいくつかある。

日本庭園やイギリスの風形式庭園と比較して、このようなフランスの幾何学庭園を見ると、徹底的に自然を制御し、造形し、その上に君臨しようとした圧倒的な意志の強さを感じる。 シンメトリーに配された緑地、噴水はフランスが王道を行っているのだろう。 イギリス式は何も手を加えていないように見せながら、実は緻密な計算のもとにアシンメトリーになるよう気を配るというものだ。

さて私も小学生の時に"ベルばら"を愛読していた世代である。 となれば、プチ・トリアノン離宮はやっぱり外せないスポットだ。案内図を見ながらてくてくとグラン・トリアノン、プチ・トリアノンを見て回る。 マリー・アントワネットがお気に入りを集めて「セルビアの理髪師」などの寸劇をしていた劇場や、ちょっと離れたところにあるあずまやなど、大いに想像を掻き立てられる。 宮廷人が集う華やかなヴェルサイユ宮殿から離れて、ちょっとした隠れ家のような離宮で仲の良い取り巻きに囲まれて過ごすことを好んだ王妃の心境もわかる気がする。 しかしそれが後に彼女に対する反感を募らせる結果となったのは皮肉なことだが。


アントワネットも憩ったあずまや?

帰りのRERはまたガラガラに空いていたが、途中からアコーディオンをかかえた人が乗り込んできて演奏を始めた。 ひとりしかチップを上げておらず、他の車両に逃げた乗客もいた。 こういう逃げられない空間で演奏されると気まずくて苦手。 地下鉄通路でやってくれるならまだいいのに。 メトロでも何度もこういったにわかミュージシャンに遭遇した。 車両にまで乗り込んでくるのはパリならではだ(ロンドンではそこまでやらない)。


夕方のRERはガラガラ・・・

 

意外にパリジャンは親切

プチ・トリアノンからの帰り、出口までの最短距離はどこを通るべきかと案内図を見ていたら、年配の男性が"どうしたの?"と声をかけてくれた。 駅や観光地で迷っている様子だと通りがかりの人がこのように教えてくれることが何度かあったことに、初フランスの夫は大いに驚いていた。 道を聞くと一緒に地図を覗き込んでくれたり、わざわざ自分が持っている地図帳(London A to Zのような通りの名前から位置を検索できる本)で調べてくれたりする人もいた。

以前見たTV番組で、"手に持っていた紙袋を落として中のリンゴがこぼれてしまった時、周りの人たちはどのような反応をするか"という実験があった。 世界各都市で実験が行われたが、パリジャンだけは無視して誰も拾ってあげようとする人はいなかった。 "パリジャンって冷たくていけ好かないヤカラだろう"と構えていた彼は、こちらに来て意外にみな親切で、旅行者に優しく接してくれることにびっくりしたようだ。

よく言われるように「フランス人はプライドが高いから、英語がわかっても自国語で通そうとする」という通説も、必ずしも真実ではない。 見たところ"本当にしゃべれないだけ"じゃないか? カタコトの英語やジェスチャー交じりのゆっくりしたフランス語で一生懸命何かを伝えようとしてくれる人たちを見ていると、"意地悪で英語をしゃべらない"とはとても思えなかった。 ホテルやタクシーなどの接客業ならともかく、普通の生活で外国語をしゃべる機会もないだろうからわからなくても無理はない。

 

ビストロで舌鼓

モンパルナスに戻って食事できるところを探しに歩き出した。 今日は日曜日。 チェックしてあったレストランはどれも休みだったので、"客の入りが良く賑わっていそうな店"を見つけて入った。 帰ってから各種ガイドブックを探してもどこにもこの店は載っていなかったが、とにかく活気があって料理も美味しい大満足のビストロだった。 (ひとり30ユーロくらいのプリ・フィックス・メニュー)

お通しにサラミなどが用意され、皮がパリッとしたバゲットに無塩エシレバター(発酵バター)が添えられて。

オードブル:スモークト・サーモンのマッシュド・ポテト添え

メイン1:Sea Bream(鯛の一種。チヌみたい)のロースト。カリッとしてソースとよく合う。 付合せのトマトになにか形容しがたいものがいっぱい詰まっている

メイン2:ラム・ロースト、クスクス添え
・・・ラムの火の通し方(中央にうっすらピンク色が残るように)が絶妙。 ラムの香りがたまらない。 クスクスはレーズンが入っていて食欲をそそる。

デザート1:バゲットのフレンチトーストをキルシュ(リキュール)に浸したものが、ブルーベリー・ソースの上にのっている。 アイスクリーム添え。

デザート2:クレーム・ブリュレ
・・・『アメリ』な気分になれることうけあいの、表面がパリッとした仕上がり。 コクのあるクリームには、バニラ・ビーンズのツブツブが入っているのがはっきり見える。

おなかいっぱいで苦しくなっても、夜風に吹かれながらぶらぶら歩いてホテルまで帰れるのがいいところ。 このあたりは手ごろなビストロが林立する賑やかな通り。

日曜日に休業の店が多いとは聞いていたが、これほど徹底して休むとは。 カソリックの国はいーかげんなアングリカンの国と違って戒律をより厳格に守っているのだなあ。

 


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