自転車に乗って石畳の街めぐり

中世のまま時を止めてしまったかのような石畳の街、ブルージュ(フラマン読みでブルッヘ)。 「天井のない美術館」とも称えられるこの水の都は一見の価値あり。

周りを見渡すと、やたらと自転車に乗った人が目に付く。 この街は貸し自転車で回ると楽しいそうだ。 広場の鐘楼(Belfort)横にあるホテルに看板がかかっていたので、一台ずつ借りていく。 石畳の道は少々走りにくいが、午前中の澄んだ空気の中を走り抜けていくのはたいへん気分がいい。

市庁舎、古文書館、裁判所、聖血礼拝堂に囲まれたBrug広場には、観光用の馬車が集結していて壮観だった。 どの馬もお尻にフン受けの布がついている。 このフン受けの仕組みはシンプルだが大変よくできたもので、おかげで街にはほとんど馬フンが落ちていなかった。 たまに布の脇からこぼれてしまう分はあるが。 同じように馬車が行き交うアイルランドの観光の拠点キラーニーでは、このフン受けがなかったので、道路が大変なことになっていたのだから。


マルクト広場鐘楼(世界遺産)

救世主大聖堂(St.-Salvatorkathedraal)
タイミング良くパイプオルガンの演奏が始まったところ。 装飾が凝っていてすごい。

聖母マリア教会/ノートルダム教会 (Onze Lieve Vrouwekerk)
ファン・アイクの「十字架上のキリスト」、ミケランジェロの「聖母子像」などがあることで知られる。

運河の中を観光客をたくさん乗せたゴンドラが行き来している。 通りには何台もの馬車が。


ベギン会院(世界遺産)

ベギン会院(Begijnhof)に入ると、ちょうど修道女たちが歌と祈りを捧げている最中だった。 ベギン会というのは、女性の在俗修道院。 一般の修道院より戒律も緩やかで、私有財産を持つことも許されていたらしい。 教会の外には修道女たちの住まいとなっている建物があり、祈りを終えた修道女たちが帰っていくのが見えた。現在はベネディクト会女子修道院となっているそうだ。

 

恍惚の瞬間:美食の国ベルギー

美食の国ベルギーの中でも、とりわけ評判の高いレストランのひとつがブルージュにあると聞いて気になっていた。ドゥ・カルメリート。 予約もせずに、かしこまった服装だったわけでもなく(ベルギーのフレンチレストランは、フランスよりフォーマル度が低いと言われており、しかも観光地ブルージュのランチタイムということで油断していた)、考えてみればかなり無謀だった気もするが、夫はせっかく来たのだから入ろうと言ってくれる。

外観はきわめてシンプル、注意してみないとそこがレストランとは気づかないだろう。 エントランスで背筋の伸びた案内係が物腰柔らかに出迎えてくれる。 シック、ミニマリズムといった形容詞が最もしっくりくるインテリアで、すっくと伸びたカラー(花)のアレンジがきりりとして美しい。 私たちが最初の客だったが、一組、二組とやってきて、しまいには満席になった。 なかにはネクタイなしの紳士もいたが、裕福なビジネスマン風のばりっとしたグループもいて客層がかなり良さそう。

いくつか用意されたコースのなか、選んだのは"季節のメニュー(春)"。 このコースに旬の白アスパラガスが入っているのが目に入り、期待が膨らむ。

「・・・お、おいしすぎる・・・(感涙)」 もう、あまりの感動に言葉が見つからない。 こ、これは、これまで入ったレストランとは比べ物にならない、最高の料理。 間違いなくナンバー・ワン。 この料理を食べるだけでもブルージュに来た甲斐があった。 本当に。

ゆったりと流れる時間のなかでひとつひとつ供される品々は、どれも見えないところまで神経の行き届いた、プロの仕事が施された芸術品だった。 それぞれの素材が共鳴しあって豊かな音色の交響曲を奏でているといった感じ。 それに盛り付けの美しいこと。 フォークをつけるのがためらわれるくらい。 カトラリーがちょっと変わっていて、重心に気をつけないとちゃんと置けない。 何種類ものパン、全粒粉でしみじみおいしい。

De Karmeliet
=Menu de printemps=

**アミューズ**
サーモンのムースとイクラ
ランティーユ(レンズ豆)、肉のパテ
何か肉系の串に刺さったベニエ(衣をつけて揚げたもの)、キャベツの酢漬け
スプーンに載ったスモークトサーモンとポテト
**前菜1**
Filet de lisette de ligne marinee, mi-cuit
新鮮な生のサバを酢で軽くしめて、ソースがかけられている。付合せに濃厚なトマトのムースとハーブトースト。
 
**前菜2**
Asperges de Malines en croute de Parmesan, sabayon de pommes de terre
ちょうど旬の白アスパラガス、こんなにえもいわれぬ甘みが感じられるとは。 調理法の勝利。 イカスミソース、オリーブオイル、海老と付合せのポテトのピュレとの相性も絶妙。
 
**メイン**
Sole de Leebrugge, meuniere, morilles fraiches et legumes verts, risotto au Vieux Brugges
舌平目の中に詰め物がされている繊細で芸術的な一品。 小骨まで注意深く取り除いてあるので、舌の上でとろけそう。 グリーンソースを始めとして数種類の凝ったソースがかけられている。 今日のメニューは全体的にシーフードを中心とした組み立てで、完成度の高さが感じられる。 付合せにオニオンリングと豆のソテー。 ぎゅっと味が凝縮された濃厚で複雑なチーズときのこのリゾットが絶品。
**フロマージュ**
Le chariot de fromages fermiers, leur petit pain aux raisins
背筋のしゃんとしたマダムが、何種類ものチーズで完全武装した"チーズの戦車"を押して登場。一口食べただけでわかる。この熟成具合の絶妙さはタダモノではない。プロフェッショナルの仕事だ。 鼻腔を抜ける香りと、しっとりとふくよかな味。私はマンステール(ウォッシュ系)とフロム・ダンベール(青カビ系)、夫は食べやすいものをということでブリーとハードタイプを頼んだが、結局夫の分まで奪ってしまう。それにしてもあのマンステール!夢に出てきそうな官能的なお味。レーズンの入った素朴なパンとあわせていただく。
 
**デセール(デザート)**
デセールは4皿がひとつの大皿に載って供される。 信じられないほどの、圧倒的な存在感をもって迫ってくるこのボリュームのすさまじさよ。 とろけそうなくらい甘い、ド迫力のデザート。 (1)苺のスープ、(2)アイスクリームとりんごのソテー、クレープシュゼット、(3)淡雪フルーツムース、(4)チョコレートとチョコクリーム、モカクリームの組合せ。
 
**プチフール**
プチフール(食後の飲み物とともにいただく一口大のお菓子)がひとり4種、チョコレート6種。 さすがチョコレート王国ベルギー。

 

ブルージュ土産物

ブルージュというと繊細なボビンレースが有名。 手仕事が冴え渡るちゃんとしたレースと、Made in Chinaの大雑把な太い糸で粗く編んだテキトーな土産物専用レースに大別できる。 後者は「清里に行ってきましたクッキー」のようなもので、「Belgium」とか「Brugge」などと地名が入ったいかにもなご当地グッズといった、見るに耐えないセンス。 ちゃんとした方のレース屋の一つに入って商品を見ていると、先程のレストランにいた奥様の一人がお土産を見に来ている。 店の奥に飾ってある、凝った装飾の高価な商品を選んでいる。 さすが。

結局買ったのはポストカードと、冷蔵庫用マグネット(建ぺい率100%の家並みを再現できる)

マルクト広場に面した郵便局で切手を買い、その場でポストカードをささっと書いて投函。 自転車を返してから歩いてホテルに帰り、荷物を受け取る。 再び運河沿いを通る市バスに乗って駅に向かい、17:33発のベルギー国鉄に乗る。

 


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