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戦争の傷痕1:The Great War(第一次世界大戦)とイギリス


イギリスで「The Great War」といったら、第二次大戦ではなくイギリスにとって未曾有の消耗戦となった「第一次世界大戦」のこと。 塹壕戦とその後のシェルショック(戦争神経症)、そしてThe Great Warが社会に与えた影響、遺された人々の想い、戦没者を悼む赤いケシの花など・・・

 

『ウェールズの山』The English man who went up a hill but came down a mountain(1995)

第一次大戦末期の1917年、戦争で疲弊したウェールズの村に、イングランドからふたりの地形調査員がやって来る話。

ウェールズの若い男たちはみな兵士として戦争に行っているか、もしくは戦争に必要な物資補給のため炭坑で働いているかのどちらかなので、村には女子供と年寄りしかいない。残っている若い男といえばシェルショック(戦争神経症)で兵士として使いものにならない者だけ。

 

『アラビアのロレンス』 Laurence of Arabia(1962)
『ロレンス1918A Dangerous Man: Lawrence After Arabia (1990)

第一次大戦中の1916年、アラビアのロレンスことT.E.ロレンスは、対トルコ反乱軍の中心人物ファイサル王子に接触し、アラブの民とともにトルコ軍を撃破る。しかしその頃イギリス政府は密かにパレスチナの地をユダヤ人に与える密約を与えていたのだった。

『ロレンス1918は、第一次世界大戦が終結しパリ講和会議が開かれた1918年から始まる。イギリスはアラブに独立を約束しながらも、フランスとも領土を分割することをとりきめており、ユダヤ人にもパレスチナを与えることを密約していたという「三枚舌」を駆使していた。アラブを率いて戦ったロレンスは、大国の好きにさせないためにもファイサルの通訳として会議に臨んだのだが・・・

 

『鯨が来た時』 When the Whales Came (1989)

この作品の舞台は、第一次大戦が始まった1914年。学校で旧約聖書について学んでいた時に「我々にとってのペリシテ人はドイツ人だ。」と、先生は厳しい顔で話し出す。

ロンドンから遠く離れた島とはいえ、遠くで爆撃音が聞こえたり、時には撃沈した軍艦の乗組員の遺体が打ち上げられたりすることもある。漂着した軍艦の救命浮き輪で子供たちが遊んでいる場面も。

『フェアリーテイル』FairyTale: A True Story (1997)

時代設定は大戦中の1917年夏。 鉄道の中、町中には傷ついた兵士があふれている。 フランドル戦のモンスの天使のエピソードも。

 

塹壕戦(Trench Warefare)

中心となったフランス戦線、フランドル戦線での中心は、塹壕戦。 塹壕(Trench)とは、戦場で敵弾を避けるために作る防御施設のことで、溝を掘り、その前方に掘った土や土嚢を積み上げたもの。
#ちなみに「トレンチ・コート」というのは第一次大戦の塹壕で英国軍兵士が来たことから名づけられた。

 

『戦争レクイエム』War Requiem (1989)

花崗岩を掘って塹壕を作る場面が出てくるが、このように第一次大戦は塹壕戦が中心。

#1: Regeneration(1997)
この作品に出て来る戦争詩人ウィルフレッド・オーウェンが登場する映画「Regeneration」 (日本未公開作品)は、イギリス系俳優好きにはたまらない設定とキャストかも。 シークフリード・サスーン、ロバート・グレイヴスら実在の人物がモデルになっている。

imdb.com<<キャストはこちらで。ジョナサン・プライス、ジェイムズ・ウィルビィ、ジョニー・リー・ミラー、ダグレイ・スコットなど
ソフト・・・米版VHSあり(字幕はないが日本のビデオデッキで再生可)。アメリカでは「Behind the Lines」というタイトルで公開されている。

#2: TV作品だが「インディジョーンズ若き日の大冒険」シリーズにも、ソンム編にサスーンらが登場する。(ちなみにこの回ジェイソン・フレミングも顔を出している)>>imdb.com

『あの頃に帰りたい』 How Many Miles to Babylon? (1982)

アイルランド人の主人公は家族との軋轢から自ら志願して英国軍に加わる。 塹壕や鉄条網など、フランスでの激戦の様子が描かれている。

 

『ゴッド・アンド・モンスター』Gods and Monsters (1998)

ホラー映画「フランケンシュタイン」の監督として知られる英国人ジェイムズ・ホエール。 カリフォルニアで引退生活を送るホエールの脳裏に、従軍した第一次大戦の記憶が生々しく蘇る。 塹壕戦で芽生えた淡い恋、そして鉄条網の前での想い人の死・・・
(舞台がアメリカなので当サイトに紹介記事を載せていませんが傑作です!)
imdb.com/Official Site

 

『ザ・トレンチ 塹壕』The Trench (1999)

2日間で6万人もの犠牲者を出したフランス北部「ソンムの戦い」の極限状況の塹壕の中の模様を、イギリス軍青年兵士たちの目を通して描いた戦争ドラマ。
imdb.com

 

シェルショック(戦争神経症)

塹壕戦に参加した帰還兵の中には、復員後も重いシェルショック(Shell shock)に苦しむ者も少なくなかった。

 

『ダロウェイ夫人』Mrs. Dalloway (1997)

第一次大戦の傷痕も生々しい19236月のロンドン。セプティマスという青年は、第一次大戦中に目の前で友人が吹き飛ばされるのを見てしまったことから、重いシェルショック(戦争神経症)のために精神状態が不安定になっている。

 

『ライアンの娘』Ryan's Daughter(1970)

アイルランド西部の寒村にやってきた(ヒロインと恋に落ちる)イギリス軍人は、重度のシェルショック(戦争神経症)に苦しめられており、しばしば前線での恐怖がよみがえりパニック状態になる。

 

『ウェールズの山』The English man who went up a hill but came down a mountain(1995)

フランス戦線でひどいシェルショックになった地元の青年は、雷の閃光でパニック状態となり、ひきつけを起こしてしまう。 兵士として適齢期の主人公が戦争に行かずに測量技師をしているのも、1914年に派遣されたベルダンでシェルショックになってしまったせい。

 

『ひと月の夏』A Month in the Country (1987)

舞台は1921年のイングランド。退役軍人の主人公はシェルショックの影響で悪夢に悩まされている。

 

『10番街の殺人』 10 Rillington Place (1971)

(映画の中では直接触れられていないが)後に殺人鬼となるクリスティ氏は第一次世界大戦中フランスでの戦闘に従軍しており、爆風で5ヶ月間視力を失い、シェルショックにより3年半口が聞けなかったとか。

 

良心的兵役拒否者(conscientious objector)

『ゴスフォード・パーク』 Gosford Park (2001)

執事のジェニングス氏(アラン・ベイツ)は、第一次大戦時に「良心的兵役拒否者」として兵役につくことを拒んだために監獄送りになったという暗い過去がある。イギリスでは、宗教的理由や自己の政治的信条により徴兵を拒否することも認められているが、監獄送りになったり、またそうでなくても周囲の人々から軽蔑の眼差しで見られることが少なくなかった。

『キャリントン』Carrington (1995)

『愛しすぎて 詩人の妻』 Tom & Viv (1994)

作家のリットン・ストレイチーや哲学者のバートランド・ラッセルも良心的兵役拒否者だったため、非難された。

 

戦没者慰霊祭、赤いポピーの花

赤いポピーの花は停戦の象徴。 第一次大戦の激戦区であったフランドル地方の野に咲き誇った赤いポピーの花を記念している。第一次大戦の休戦記念日(Armistice Day)である11月11日には、赤いケシを胸につけて戦没者を悼む習慣がある。のちに第二次大戦も含めて1946年にRemembrance Dayと改称された。現在でも毎年11月11日の停戦記念日周辺に、赤い羽根募金のように赤いポピーを売って募金を集めることが習慣となっている。詳しくはこちらをご覧ください。

 

『炎のランナー』Chariots of Fire(1981)

新入生歓迎晩餐会が催されたホールには、第一次大戦(1914-1918)で戦没した卒業生の名前が刻まれている。 ノブリス・オブリージュ(高貴なものはより多くの責任を負う)という思想が浸透しているイギリスでは、戦争となるとケンブリッジの学生のようなエリートたちは率先して戦争に赴いた。

 

『アナザー・カントリー』Another Country(1984)

物語の導入部に、第一次大戦の戦没者を慰霊する儀式があり、Laurence Binyon (1869-1943)による詩'For the Fallen' が朗読されている。

'For the Fallen' by Laurence Binyon

They shall grow not old, as we that are left grow old:
Age shall not weary them, nor the years condemn.
At the going down of the sun and in the morning
We will remember them.

イートン校出身者のようなエリートは、多く戦場で指揮官として命を落としていた。学校で軍事教練が行われているのも、この時代の空気を反映している。 きちんと軍服を身につけ、一糸乱れぬ動きが要求される厳粛な場なだけに、それをぶちこわしにした者への懲罰も過酷なものとなった。

 

『チャタレイ夫人の恋人』Lady Chatterley(1995)

チャタレイ夫人の夫クリフォード卿は、第一次大戦で負傷したために半身不随になった人物。 彼の兄もこの戦争で命を落とし、次男であるクリフォードも重傷を負いながらも、兄のかわりに家督を継ぐ。 戦没者慰霊式でクリフォードは花輪、赤いポピーを捧げる。

 

『ウォーレクイエム』War Requiem (1989)

哀しいまでに静謐で美しいラストシーンは、ドイツ兵が捧げ持つ赤いひなげしの花輪。

 

『トミー』 Tommy (1975)

(舞台は第二次大戦末期からはじまるが)おそらく第一次大戦の戦没者慰霊祭に、子供を連れて行く場面がある。母の胸に付けられているのは赤いケシの花。

 


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